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    09

    ヘカテーの弓~ジョナサン・マディソンの焔~Ⅱ


    歴史書には、こうあります。

    誠に凡庸な少年であった。

    しかし、その魂は青々と揺らめき、ネバーブルーの輝きを灯していた。

    彼はヘカテーの生まれし12才より、けして育つことも、衰えることもなかった。

    そして、二百年の時を生き、かの天体に永遠の輝きを約束し、静かにその生を終えた。

    妖精たちは嘆き悲しみ、彼の棺に、たくさんの青い花と、蝋燭を手向けた。

    フェアリーブルーの花々に、ネバーブルーの焔。

    幻想的な通夜は七日間続き、最後にユニコーンが一啼きした時、

    天上の花は空を青く染め、ムーンブルーの光の波が地上を撫でた。

    美しい光の海が去ってのち、人々は、彼らを忘れた。

    残されたのは、事実と憶測のみが書かれた、まったく面白みのない歴史書と、なおも輝き続ける天体のみ。

    切り取られた記憶はいったいどこへ行ってしまったのか…。

    その真実を知るのは、一人の男。

    彼の名はジョン。

    自らは歴史に載ることのない、平凡かつ奇矯な歴史学者。



    ―さあ、奪われた記憶を取り戻せ・・・。
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    09

    ヘカテーの弓~ジョナサン・マディソンの焔~Ⅰ

    あるところに麗しの少年がおりました

    彼は特に優れた外見を持っていたわけではありません

    けれど―いたずらっぽく青々と澄んだフェアリーブルーの眼と、大変チャーミングなそばかすを持っておりました

    彼はごく普通の家庭で生まれた普通の子として、普通に生きるはずでした

    しかしです―

    まばゆかな光を纏って彼女が生まれた冬の朝、彼の人生は劇的に変わってしまったのです。

    彼女―ヘカテーは生まれながらにして12の言語を話し、大変恐ろしいスピードで育ちました。

    彼女はまず、1日めに、残りすべてのあらゆる言語を解しました。

    また、2日めにして天を駆け、

    3日めにあらゆる動植物の言葉をかいし、

    4日めに消えゆく星に火をともし、

    5日になる頃には天使や妖精を従え、

    とうとう6日めに、その白魚のような手に虹色の弓を持ち、かの天体を撃ち落としたのです。

    わたしは、今でも覚えております。あれは、ちょうどわたしが22才の頃。

    世界は闇に包まれ、地上は一時、大混乱に陥りました。

    なにしろ、この世の終わりのような轟音とともにあの星が―…太陽が墜ちていったのですから。

    そして更に不吉なことが起こりました。

    海はごうごうと荒れ、わずかな温度さえ失ったこの地球は、凍りついたようにその時を止めました。

    運命の7日め―、地球に麗々とした天使の梯子が現れました。

    そしてなんと、太陽の光を借りていたはずの、本来光るはずもないあの麗しの星が、おもむろに輝きだしたのです。

    それは、まさに彼女と血を分けたる兄弟、ジョナサンに妙なる力が与えられた証でした。


    ただの少年だった彼に、すべてを与えた彼女の物語は、まさに新たな神話そのものでした。


    ですが―…。

    本来持たざるものであったはずの少年、ジョナサンとは一体なにものだったのでしょうか?



    26

    ヘカテーの弓~ジョン・マディソンの悲願~Ⅴ

    ―やがて月は満ちる。

    あかあかと、時に青々と輝くその天球は、

    いまや、この地球になくてはならない、「偉大なる光」を与える唯一の存在である。

    のちに≪少年≫は、彼女に出逢う。

    その少女は大変麗しく、太陽のようにさんさんと輝く蜂蜜色の髪と、月のような魅惑的な白銀の瞳、

    そして神話の女神のように神々しい衣をまとっていたという。

    彼女の名は、ヘカテー。

    宵闇の女神の名をもつ、太陽の射手。

    しかし、なぜ、本来ただの少女である彼女にそれだけの力が宿ってしまったのか?

    それは今後も語られることのない最大の謎であり、恐らく人類史上最大の過ちの結末である。


    太陽はもう存在しない。

    あの巨大な天体は、もはや過去の遺物である。

    しかし、考えてもみてほしい。

    あのまま時が進めば、やがて人類の愚かな所業により、フォトン・ベルトを通過した容赦ない日光が降り注ぎ、

    我らが人類および、たくさんの生き物が滅びていただろう。

    彼女はその太陽を撃ち落とすことにより、その脅威から地球を救った。

    そしてなにものかが、その代わりに、月に焔をともしたのだ。

    その人物こそ、彼女の兄―ジョナサン。

    これは、新たな神話と、そのはじまりを記した物語である―。
    26

    ヘカテーの弓~ジョン・マディソンの悲願~Ⅳ

    それでヘカテーって結局何者かって?

    ふむ、それは難しい質問だ。

    わが妻の娘であり、この世のすべてであり、

    月母、月女王、あるいはそのすべてを裏切る存在・・・。


    まあ、ようはなんでもいいのさ。

    彼女を呼ぶには、どんな言葉も陳腐すぎる。



    ―もうすぐ月が沈む。

    きみはもう家に帰るといい。

    もちろんランタンも忘れずにね。


    なに、結局この話の顛末がわからない?

    それは大問題だ。

    昨日もらった歴史の教科書をなくしてしまったのかい?


    それではしかたない―。

    この本はいまのきみには早すぎるようだ。

    また気が向いたら、取りに来なさい。

    先生はずっとここにいるから、問題ない。

    ―いつまでも、この焔が燃え尽きるまでね。
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    ヘカテーの弓~ジョン・マディソンの悲願~Ⅲ


    あの神話とは違う未来を、ただ我が娘、ヘカテーに託そう。


    太陽になれない僕(ジョン)と月になれない君(メアリー)、神になれない愛し子(ジョナサン)・・・

    ―そして―すべての悲願、ヘカテー。


    ここに、祈りは叶えられた

    今こそ、ゲートが開く時だ

    眠りに落ちた僕を、迎えてくれる娘がいるのだから

    僕は安心して眠ろう

    オリオンを射たアルテミスのように、

    太陽を射るだろう彼女は、君を救う僕の悲願であったのだから


    宵闇の歌を歌おう。やがて訪れる光は、全世界を包むだろう

    この瞼は開かれ、この足は大地を踏み、この手は月を掴む

    そうして焔を帯びたそれを大地に転がして、支配者を気取るのだ―


    ・・・失礼、冗談が過ぎたようだ。

    さて、どこまで冗談で、どこまで本当か・・・。

    その判断はきみにまかせよう。

    ああ。今のきみって誰かって?

    もちろんわが妻のことではない。目の前のきみのことだ。

    そう。この本をきみに託すのも悪くない。

    僕はもう十分生きたからね。

    ジョナサンと妻が死んでから、軽く四百年くらいか。

    ―ああ。今のは別に、聞き流してくれていい。
    26

    ヘカテーの弓~ジョン・マディソンの悲願~Ⅱ




    愛するジョナサン・マディソンの12回目の春に

    僕はもう生きてはいないだろう

    そこまでの奇跡は望まない

    ただこの矛盾だらけの願いが届くなら

    僕はいつまでも、祈り続けられる

    この命を燃やして、それまでは君を暖め続けよう


    ジョン・マディソンが誓おう

    この焔尽きても、永遠に君を―。





    ―・・・そうして、いつしか春が訪れて、僕は死んだ・・・―



    愛するジョナサンは今頃どうしているだろう

    メアリーとヘカテーは、笑っているだろうか

    それとも泣いているだろうか



    ちいさな焔はきっと矢を放つ

    それは大きな流星となって、いつか太陽さえ撃ち落とすだろう

    しかし、それはエンドではない

    太陽のない世界では、密やかな月が、やがて世界を照らす焔を帯びるだろう

    それは、新たな世界のはじまりであり、新たな歴史のはじまりである

    愚かな思想だ、ばかげた妄想だ、と笑ってくれてかまわない。

    だが断言しよう。それは、確定された未来であり、唯一無二の真実だ。

    そして、そのとき、この肉体と魂は蘇る。

    なぜならば、暗闇は、星を包み、月を祝福するのだから―。
    13

    ヘカテーの弓~ジョン・マディソンの悲願~Ⅰ



    暗闇の中で僕は手を伸ばした

    ああ、この歪んだ世界で君を救えるなら

    僕はなんだって捧げるだろう

    オリオンに祈る

    君の未来に、溢れんばかりの祝福を―


    君がすきだと言った、あの星は、暗闇のなかでも一段と眩い。

    まるで君みたいだ―そっと、目を閉じる。


    僕は闇で君を包むことしかできない

    僕は太陽にはなれない

    されど君はそっと僕に笑いかけた


    この繋いだ指は、いつかまた、ちいさな焔を灯せるだろうか

    僕は再び、ちいさな命を引き継げるだろうか


    ただ、祈る

    ちいさな奇跡が、楔となり、約束となり、君と僕とを繋ぐことを

    君に祝福の天使が宿ることを

    そのためなら、なんだって厭うことはないだろう

    いつまでも、君を包む空であることを誓う

    そう。たとえ全世界に裏切られようとも―
    01

    ヘカテーの弓―Episode.0~唐紅~


    唐紅をわたしは知っている。

    それは永久なる愛だ。永久の悲しみであり、喜びだ。


    すべての果てを越えて、今、ここに繋がる世界。

    月が太陽になり、すべてを欺く世界。


    ここにわたしは立っている。

    あなたと、ジョナサンと、わたし。


    そして、すべての答え、ヘカテー・マディソン



    風が吹き、目を閉じれば、そこに、すべてがある。


    そこに、あなたがいる。


    これは、いつか目覚めるあなたと、そして、奇跡の少女の物語。
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