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    05

    『リシアンの契約β~いつか咲き誇る花へ~』

    ぼくの物語をここまで読んでくれたあなたに、
    ぼくはささやかな花束を贈ろう。

    ピアニッシモ、アンダンテ、アレグロ。

    ぼくの指先は、ありし日の旋律を紡ぐ。

    思い出をなぞるように、
    あの物語のつづきを、ちょっとだけ教えよう。

    そう、紫緒のいなくなった世界のことを―…。



    「なんだよー。おれとお前の仲(なっか)だろ~?」

    放課後の帰り道、そう言い放ったのは
    トオヤ。巽十夜(たつみとおや)。

    エメラルドのように
    輝く大きな緑の瞳につんつんした黒髪の、
    ぼくより五センチも背の大きい少年だ。

    「―え!」

    聞き返すぼくは12歳。

    ちょうど、ぼくが語ったエンドロールから、
    半年がたった頃だった。

    お義母さん…、
    ぼくの遠い親戚にあたる、夜宮星乃さんに、
    この夜ヶ丘中学に復学させてもらって、

    リキア―この世界ではぼくと同い年の、
    “愛染愛世(あいそめ・あいせ)”が転校してきて、

    たまたま席が隣だったトオヤに出会って。

    ぼくは相変わらず、
    常闇の世界とこの昼の世界をいったり来たりと、
    忙しい日々を送っていた。

    それでも、毎日はすごく楽しい。
    高等部のグリシーヌ…、
    ええと、ヴァイオレットとのお付き合いもその…順調だ。

    まだキスもできていないのは、うん、頑張ろう。
    結構…かなり恥ずかしくて、
    タイミングを逃し続けているけれど、
    時間がなんとかしてくれる、たぶん。

    もうちょっと大人にならないと…。
    それでグリシーヌをリードする…うん、それだ。

    ガン無視で考えこむぼくに、トオヤはぶうたれた。

    「なんだよ水臭いヤツだな~。
     おれとお前は前世からのラヴァー!
     そういう遠慮はナシだぜ~っ」

    (え、えぇ~?)

    一歩下がったぼくに、
    すすっと近づいて肩を抱いてくるトオヤ。

    「お、お前、まさかホ〇…」

    ぼくより更にひいているリキアがつぶやく。

    「なんだよ、いたのかよ愛染~」

    ぶー!と口を尖らせるトオヤ。

    「最初からいただろうが!
     男、お前、まさかリシアン狙いなのか?
     冗談じゃないぞ、ただでさえグリ…、
     ヴァイオレットという女狐がいるのに、
     まさか今後に及んで男まで…」

    トオヤのことを、
    意地でも名前で呼ばない気らしいリキアは、
    やれやれと不服そうにしつつ、ぼくをちらっとみやる。

    「リシアン、お前なにを目指しているんだ?
     ジゴロか?天然ジゴロなのか?」

    ジゴロ…苦笑するぼくに、トオヤがぷぷっと吹き出す。

    「意味知ってんのか涙花!
     お前…おもしれえ~な。意外!超意外なんですけど!」

    お腹を抱えるトオヤ。
    リキアはむっとしながらぼくの手を取る。

    「いっとくがリシアンはぼくのものだ!
     薄汚い男は引っ込んでいるんだな!」

    「あっ、なんだよ愛染~!ヤル気かあ?
     いいぞ、受けてたつ!
     “いっとくが”、おれはオンナだろ~と容赦はしないぜぇ?
     腕相撲でもくすぐりでも絶対おれが勝つ!
     あっ、いて!おい、石投げるのは卑怯だぞ、
     オンナのくせにきょうぼ…いて! いててっ!」

    トオヤはすっかり頭にきたらしいリキアに、
    小石を投げられまくっている。
    だったら、おちょくるようなことしなければいいのに…。

    夕暮れの河原沿い、
    ぼくたち三人は笑いながら歩いてゆく。

    あの常闇の世界だけでなく、
    この昼(げんじつ)の世界でも、ぼくには友達ができた。

    狭かった世界は少しずつ広がり、
    朝焼けの世界に染まりゆくなかで、
    ぼくの胸に生まれでたのは、
    ほんの少しの懐かしさと、溢れだすようなさびしさ。

    あれから、昼の世界で目覚めたあと、
    何度常闇の世界に戻っても、紫緒に会うことは叶わなかった。

    まるで存在ごと抜け落ちたように、足りないピース。

    それは、まるで、ぼくを救った代償のように―。

    あのとき、確かに崖から落ちたぼく。
    前後の記憶はないけれど、
    たぶん、あの時ぼくを包んだぬくもりは、きっと紫緒だ。

    青紫の使い魔―ぼくの相棒は、昼の世界では、
    “篠姫さんを倒した”時だけしか姿を表していない。

    まるで、空気中にとけて消えてしまったように、
    かすかなにおいのみを残して、いなくなってしまった。

    しゃらん、という鈴の音と共に、ぼくは我に返った。

    目の前にいるのは、お義母さんの飼い猫、シオンだ。

    そういえば、紫緒のことを考えているときだった。
    この子が寄ってくるのは。

    まるで、ぼくがいる!とばかりに、
    金貨色の目を爛々とさせながら。

    そうすると、急にぼくの記憶は、曖昧となって、
    苦しいほどの寂しさは、消えてしまう。

    そうだね、きみがいる。
    きみはまるで、ぼくの魔法使いだ。

    そっとそのビロードのような、
    青にもみえる背中を撫でると、
    気持ち良さそうに、すりよってくる。

    なんだか、嬉しくて、
    その身体に顔をうずめるように抱きしめた。

    紫緒。きみのいなくなった世界では、今日も星が瞬く。

    失ったものは取り戻せない。
    でも、だからこそ、今ぼくのなかに、そばにあるものが、
    まるで奇跡みたいに輝いて、その闇を照らしてくれる。

    こっちでやんす、と、まるで月夜のランタンのように。
    海原の羅針盤のように。

    じわり、と湧き出す雫は、
    柔らかなぬくもりが、やさしく吸い取っていった。

    紫緒…もしきみに会えたら、
    その時はきみに、二度ととけない魔法を贈ろう。

    それは、ぼくのわがままだ。
    身勝手で、子どもっぽい願いだ。

    だけど、きっときみは、こう言うだろう。

    『仕方がないやつでやんす。
     ―わかった、これからも、ずっといてやるでやんす。

     その代わり、この契約は破棄不可能。
     おまえは死ぬまで、この我と一緒。

     なにせ、おまえときたら、
     まだまだ、ぜんぜん危なっかしいでやんすからね?』

    そう、それがぼくの二番目の願い。
    そしてきっと、最後の願いだ。

    ぼくの世界は、紫緒ではじまり、紫緒で終わる。

    ぼくの最初のあいぼう。最初の友達。

    きみは、古今東西の羅針盤、
    そして世界一の使い魔<アガシオン>。

    ぼくの世界を照らす、月夜の道しるべ―。

    永遠に歌おう。
    きみとの歌を。

    それは、こんな晩を照らす、常闇の子守歌。

    やさしいゆりかごのなかの、祝福のカンタータ。

    ぼくは、将来きっと、この出来事を、
    ぼくに訪れたすべての音色を、書き留めるだろう。

    その本のタイトルはもう決まっている。

    『リシアンの契約』

    ほくはその本を、常闇の世界を訪れる、
    次のぼくに捧げようと思う。

    ぼくが、<夜宮涙花>が、そうであったように。

    次の蝋燭の灯しびとはどんなひとなんだろう。

    でもきっと、ぼくと同じ12歳の、
    青い瞳をした少年だと思う。

    ぼくは、いずれ青の王となり、
    その子の誕生を待つだろう。

    真青き清らの花<リシアンサス>は、
    いつだって、何度だって咲き誇る。

    そう、聖なる夜の物語は、何度でも語り継がれる。

    もしかしたら、その時紫緒は目覚めるのかもしれない。

    次のぼくを、朝焼けに導くために。

    その時を心待ちに、ぼくは、ふたつの世界を生き抜く。

    特に激しく、時に穏やかな音色に導かれながら。

    ぼくはぼくの人生をまっとうする。

    たとえその時が訪れなくても、ぼくは絶望なんてしない。

    なぜなら、あの日あの時、紫緒に出会えたことが、
    あの常闇の世界に導かれたことこそが、
    ぼくのなによりの福音なのだから。

    ふと、空耳が耳をかすめた。

    『なにをいっちょまえのことを言っているでやんす。
     惰弱がかっこつけてるんじゃないでやんすよ?』

    ぼくは、思わず振り返る。

    窓の向こう、青紫の煙が、ぷふん、とはじけた。


    満点の星がきらきらと、
    まるでひとつの奇跡のように、瞬いていた。





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    comment

    Nicola
    こんばんは(*´ω`*)
    リシアンとグリシーヌがお付き合い…となって思わず二度見しました笑
    そういえば、最初のほうでそういうフラグがあったような…すっかり忘れていたので「ああっ!」ってなりました。
    してやられました(勝手にやられただけ

    なんだか三人でわいわいしてるのが、ほのぼのしてていいなあと思いながら。
    いろいろありましたが、こういう微笑ましい結末に落ち着いたのはとても良かったです。

    なんだかまだ2つほど「真の最終話」とかいう胸が高鳴るものが置いてあるので…また読みに来ます笑
    お邪魔しました!
    2013.10.28 20:52
    REO.
    いやいや、意外に逆転があるかもですよ…! 
    ぼくっ子女子の逆襲!!みたいな(え

    作者も感慨深いです。
    親としても、これまで色々あったぶん、たくさん幸せにしてやりたいです。

    はい…!リシアンの契約は「喪失と〇〇の物語」なので、ここでは終われません…!
    タイトルで薄々お気づきかと思いますが、そう、あのキャラの真実の姿が明らかになります。
     
    未公開エピソードもたくさんありますが、
    (トオヤとリシアンの夫婦漫才(違う)や、リキアがリシアンに告白するシーン、
     瑠璃の魔女(お義母さん)の秘密など…)
    永遠と続きそうなのと、「あたためていた次回作(『夏芽楽団交響曲』)を書きたくて我慢ならぬ!!」
    となったので、いったん一区切りしました。

    真の最終話は、実は書きなおしたい話ナンバーワンで、
    (リシアンがあまりにもその…うう、ネタバレなので伏せますが…)
    これってどうなのかしら…とそわそわしていたりします…!

    またお気軽にどうぞ!
    煎茶と座布団ご用意してお待ちしております!





    2013.10.28 22:26

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