--

    スポンサーサイト

    スポンサー広告 comment(-) trackback(-)
    上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
    新しい記事を書く事で広告が消せます。
    07

    『夏芽楽団交響曲 “秘密”~finale~』




    「ねえ、夏芽」

    烈火が振り返った。

    「あたしはあなたに恋をしなかったわ。
     自分の物にしたいなんて、独占したいなんて、ちっとも思わなかった。
     ―そう…大切にしたかった。
     丁寧に守って、頭を撫でて、可愛がりたくて、たまらなかった」

    烈火は泣きそうだ。なのに、すごく嬉しそうに、笑うんだ。

    「だから、恋なんかじゃなかったのよ」




    ―今も。
    それは変わらないの、と烈火は目を細め、
    わたしの頭をくしゃりとすると、するり、と頬を撫でた。

    優しい手だ。
    あったかい手だ。
    すべらかで、きれいで、少し大きい、烈火の手。

    「だって、こんなしあわせは、他にないわ」

    烈火は、笑う。

    くらり。
    あんまりその笑顔が甘くて、まばゆくて、
    わたしの世界が、まるで一回転したみたいになる。

    女神に愛された美貌の烈火が、
    本気で微笑(わら)うなら、
    きっと、あらゆる物は、あらがう力をなくして、
    服従を誓うってしまうだろう。

    だって、烈火のそれは、女王にふさわしい、
    圧倒的で、絶対的な“力”だから―。

    …一瞬。
    言葉も、呼吸も忘れて、わたしは烈火の、
    あざやかに燃える炎みたいな瞳をみつめかえした。

    「…エマを独占したい、ずっとみつめて、
     うらやんで、触れないでいたい。
     …そんな気持ちとは、違いすぎる。

     あたしはあなたと出会って、エマに恋をした。
     それは、必然よ。
     
     すべてはあなたがいなかったら、成立しなかったこと。
     エマと、恋人になれるなんて奇跡、あなたがいなかったら…」

    そういって、目の端を拭う烈火は、
    頬に流れる透明な一筋を、おかしそうに笑った。

    「…本当に、変よね。あたしがこんなこと言うなんて…」


    明日は雨かしら、そう苦笑する烈火の頬は、
    赤い果実みたいな実りの色をたたえていた。

    「―ううん」

    わたしは、言う。

    「…全然、おかしくないよ。
     わたしは、唯音を、わたしだけの唯音にしたかった」

     独占したかった。
     可愛い唯音も、賢い唯音も、
     気難しい唯音も、照れ屋な唯音も、ぜんぶ、ぜんぶ。

    「誰にも渡したくなかったよ。
     今だって、そうだよ。
     烈火にだって、譲れない。だけどね―…」

    烈火にはしあわせになってほしかった。
    強くて、一途で、綺麗で、いつもすごくて…。
    ほんとうは泣き虫な烈火が、しあわせになってくれたら、いいなって。

    それがわたしじゃなくても、
    ううん、わたしじゃなくて、エマだったらいいなって。

    烈火のだいすきなエマが、
    烈火をしあわせにしてくれたらいいなって。

    「…だから、わかるよ。 すごく、うれしいよ。
     わたしたち、全然違うけど、すっごく一緒なんだもん…!」

    そういって、わたしは、烈火に抱きついた。

    まったいらな胸。
    すらっとしていて、かたい体。

    もう、烈火は女の子の格好をしない。
    舞台以外では、ちゃんと男の子だ。
    女の子の口調も、たぶん、今日が最後だ。

    …そう。
    烈火は、エマのために、女の子のふりをやめたんだ。

    それが、ちょっとさびしいけど。

    わたしは、一回だけ、すり、と頬をこすりつけると、
    その胸から離れた。

    「これからも、ずっと、一緒にいようね…!」


    「…そうね。あなたは、あたしの、最高の友達だわ…」

    …ほんとはね。
    まぶしそうにわたしをみて笑った烈火の、
    ほんのすこしのさびしさを、わたしは知っているんだ。

    それでも、それは触れない約束。

    わたしたちは、恋愛と友情を履き違えない。

    それは、すごく似ていて、でも、ぜんぜん違う。
    色も、味も、手触りも…すべて。

    「…あたしは…、俺は、約束する。
     お前を、これからも、見守る。唯音とは違うやり方で。
     ―許してくれるか?」

    「…うん。もちろんだよ、烈火」

    わたしは、まっすぐ烈火をみつめると、ちょっと照れて笑った。

    「…でもこれで、有斗としゃべり方被っちゃったね」

    「…ばか。あいつはいじられキャラで、俺は王なんだよ。
     完全にレベルが違う」

    「女王から、王かあ…さらにたくましくなったね」

    「…当然だろ。俺はもともと強い」

    わたしは頭をくしゃくしゃにされそうになったので、逃げ回った。

    新しい、烈火との関係。

    今日から、女友達から、男友達になった烈火は、
    明日には髪を切って、とびきりかっこいい姿で、
    周りを騒然とさせるだろう。

    だけど、今日だけは、そのままの、烈火の姿でいてくれた。
    口調も、ぎりぎりまで、わたしのだいすきな烈火でいてくれた。

    いつもと違う烈火に、ちょっとドキドキしたのは、ないしょの話。

    それがわたしの、烈火に対する、最初で最後の“秘密”だから―。





    ☆★ランキングに参加しています!★☆
    ↓ぽちっとクリック・拍手・コメント等いただけると、
     とってもとっても励みになります!




    br_decobanner_20120205210256.gif


    関連記事
    スポンサーサイト

    comment

    post comment

    • comment
    • secret
    • 管理者にだけ表示を許可する