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    13

    『夏芽楽団交響曲 “誕生”』

    どろりとした暗黒が、唯音の手を血色に染めた。

    ああ、あああ。

    唯音は声をあげ、ヴァイオリンを落とした。

    がしゃぁああああん…。
    硝子が砕けちるような音がして、
    いたる暗闇から、顔が浮かび上がった。

    唯音の音楽によって、破滅した人たち。

    唯音は、その記憶を失っていた。

    唯音の両親は、神々と「約束」したのだ。
    唯音の記憶を封じ、これからは、誰も死なないようにすると。
    そう、自分たちの命と引き換えに。

    約束を破った者は死ぬ。
    それがこの、<朝顔の世界>のルールだ。
    でも、唯音の両親は、もっと過酷な約束を選んだのだ。

    破っても破らなくても、死ぬ。

    神々の力をたとえ一部でも、
    なかったことにするには、それしかない。


    唯音の呪いを解くには、それしかなかったのだ。

    どんな悲劇だろう。
    唯音が天才的な音楽の才能を秘めて誕生していなければ。

    <朝顔の女神>に愛されなければ、世界律は狂わなかった。

    もしそうじゃなかったなら。
    唯音がもっと平凡で、普通だったなら。

    たくさんの見知らぬひとを殺めることなく。
    見知ったひとも、大切な家族も、なにひとつ失わずにすんだのだ。

    唯音の手がもとの雪みたいな白磁色に戻ると、
    唯音は抱え込むようにわたしの顔を抱いた。

    「夏芽。ぼくは君を壊したくない。壊したくないんだ…っ」

    恐ろしい顔たちは、即座にみえなくなった。

    きっと唯音は泣いている。涙を浮かべて、助けを求めている。

    ああ―。唯音。
    あなたは、こんなに痛くて、苦しくて。

    ―なのにそれでも、わたしを守ってくれようとするんだね―。




    「―大丈夫だよ」



    わたしは唯音の腕を優しくほどいた。
    力は全然こもっていなかった。
    その手はかたかたと、がたがたと震えていた。

    「わたしは強いから。そんな簡単に壊れたりしないよ。
     わたしは硝子細工じゃない。
     ―ダイアモンドだよ。それくらい丈夫だよ」


    ほんとは、ダイアモンドなんて“硬い”だけで、
    金槌で叩けば簡単に壊れちゃうけれど。

    わたしは優しいうそをついた。

    「わたしは壊れないよ。
     絶対に唯音の前から消えたりなんかしない。…約束するよ」

    わたしは、小指にちいさな光が灯ったのを感じた。誓約のしるし。
    ―これを破ったら、わたしはこの世界から消えてしまう。

    そっと、頭の端からつま先まで、震えが走る。

    これまでのわたしは、ぜんぜんわかっていなかった。

    これが、命をかけるということ。
    これが、本当の願い。

    心臓を丸ごとつかまれているような、恐ろしい恐怖と、
    それを上回る、絶対的な満足感。

    ―そう、朝顔の世界の約束は―命がけの、愛のしるし。


    「唯音。一緒に世界を救おう?
     …きっとわたしたちならできるよ。
     だってわたしたちの―“笑顔は…愛は、最強だから!”


    わたしは両手を広げた。

    わたしの命が、力の結晶が、カラフルなびい玉のように、
    溢れて、はじけ、暗黒だった世界を照らした。


    「―もう唯音は泣かなくていいよ!
     …わたしが唯音のヒーローになる!
     世界だって救っちゃってみせるよ!
     だから、唯音は隣で笑ってて。わたしの右腕になって!
     ―わたしだけのヒロインになって!」


         
          「―…そして、一緒に世界を救おう!!」



    唯音の世界が、音を立てて砕けた。

    閉塞していた暗黒の箱庭は、光のつぶてに壊しつくされ、
    そしてあの懐かしい旋律が聞こえてきた。

    「交響曲第1番“誕生”」

    唯音が生まれてはじめて作った音楽。
    津波のように寄せてははじける喜びと嬉しさ。

    無上のしあわせの交響曲。
    ひたすらに雄大で、涙がでちゃうほど豪華で、
    でも全然うるさくなくて…。

    綺麗で、優しい、熱くてあったかい旋律。


    これが唯音の、魂の旋律<アニマ・コード>なんだね…。

    わたしは、唯音を抱きしめたまま、
    床が木に変わり、壁も、空気も、なにもかも変わったのを実感した。

    ここはもう、カフェ・ボンソワールだ。
    いつもの場所。そして、わたしたちのはじまりの場所。

    驚いたような声が、嬉しそうな声が降りかかる。

    烈火、有斗、絵馬、永遠音ちゃん。
    ―みんな。
    次々に駆け寄ってきて、
    最後に、酩酊博士が、穏やかに髭をしごいた。

    「―さあ。役者は揃ったようだね。
     さて、はじめようか。栄誉ある作戦会議を!」

    ラグナロクは、起きない。起こさせない。
    わたしたちが、朝顔の世界を、正しい未来へ導くんだ!



    黙したまま語らない「彼女」は、
    鏡面の世界から、そんなわたし達をみつめていた。

    「―気に入りませんわ。
     夏芽様…貴方様は、なにもわかっていらっしゃらない。
     ご自分の領分をわきまえていただかないといけませんわ。

     わたくしは、貴方様を排除する。
     唯音様の因果になど、立ち入らせてはいけない…。
     たとえこの世界が滅んでも、それだけは阻止しますわ。

     そう、すべては、我が主様のため…」

    鮮やかな薄紅色の瞳の奥、真紅の瞳孔が、金色に輝く。

    「そのためならわたくしは、
     神格を穢し、闇の眷属にすらなりましょう。
     奏で、導き、刈り取る者…このわたくしの手で…
     ―ただの人間である貴方様は、無残なる屍となるのです」

    蠱惑的な笑みをたたえた朱い唇は、
    美しいハープのように、破滅のメロディーを奏でだす。

    その顔は、嬉しそうにも、悲しげにもみえた。
    彼女は、残酷に、優しく、旋律を重ねる。

    まるで、聖母のように、妖魔のように、女神のように―…。







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    comment

    Nicola
    どこまで読んでも「いいところ」で終わるのは心臓に悪いですね!とてもいい意味で心臓に悪いです!(どういうことだ

    夏芽ちゃんがんばれ…!とこそこそ応援しておきます…!
    朝顔の世界ではアレですね…迂闊に適当に約束なんてしちゃうとヤバイですね。
    唯音と約束して、これからどうなるやら…うふふ…
    2013.12.11 22:20
    REO.
    スリルとドキドキ感は大事です!(笑)
    引きに引いて最後まで読んでもらう作戦…!
    次のページをめくる手が止まらない作品が好きなので、
    少しでもそうなっていたら嬉しいです!*

    夏芽は後先考えないので…(苦笑)
    猪突猛進に、クライマックスまで走り抜けます。
    でも、大事なのは、むしろ走っている瞬間より、立ち止まる瞬間です。

    唯音を守ろうとする気持ちは同じなのに、
    対立してしまったハルピィアと夏芽…。

    異能の力を持つ者と持たざるもの。
    その残酷な力量差に、夏芽はどう立ち向かうのか。

    そして、夏芽は、自らの第一番目の真実に気づきます。
    空橋夏芽は、×××である…。

    夏芽は、その事実を乗り越えられるか。
    そして、唯音が誓う約束とは…。

    お楽しみに!









    2013.12.12 14:17

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