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    16

    『夏芽楽団交響曲 “英雄”<ヒーロー>』


    「怖い…怖いよう…パパ、ママ…」

    霧の向こう、少女の声がする。

    「夏芽・・・?」

    ねばつくような闇が、足をからめとる。

    早く、夏芽を探さないと。
    白い闇にとけてしまってからでは遅いのだ。

    朝顔の世界に取り込まれてしまったら、
    夏芽はこの世界の女神になってしまう。

    それだけは…阻止しなければ…!

    向日葵のように微笑う夏芽。
    ぴょこんとポニーテールを揺らす、元気な姿。
    潤んだように輝く、無垢(むく)な瞳。
    あたたかい手。
    すべて、すべて、失わせてはならない…!

    息がはずむ。
    何度も転びそうになる。

    目がかすみ、喉が焼け付く。



      ((―夏芽…っ!!))



    ―そんな時だった。
    急に、霧の濃度が変わる。
    さらさらした空気に、開ける視界。

    そこは―なんてこともない、どこかの庭だった。
    チューリップの花のプランターの近く、少女がしゃがんでいる。
    五歳くらいのちいさな女の子だ。

    いや、その顔は・・・!








    「夏芽・・・?!」


    愛らしいほっぺ。くりくりとした黒の瞳。ふたつに結んだ髪。
    それは、まるで夏芽を更にちいさくしたような子だった。

    「?…おにいちゃん、なつめを知ってるの?」

    「君は・・・」

    まさかほんとうに、夏芽本人なのか―?
    ―いや、驚いている場合じゃない。状況を把握するんだ。

    「―ああ。よく知っている…。…おにいちゃん?」

    「だって、おにいちゃんはおにいちゃんでしょ?」

    にかっ。楽しそうに笑う夏芽。

    「…君は…君だな―」

    目を細める。
    あたたかい気持ちが、そっとなだれ込んだ。


    「パパとママとはぐれたのか?」

    「…ううん。パパもママももういないの。
     お星さまになっちゃったんだよ」

    「…そうか。君は…ぼくと同じだったんだな…」

    「同じ?おにいちゃんも、ひとりぼっちなの?」

    「…ああ。妹もいるが、ぼくでは、妹を幸せにできない。
     だから、ふたりぼっちだな」

    「…そっか。一緒なんだ」
    夏芽が下を向く。

    「…夏芽…」

    「―ねえおにいちゃん。
     なつめ、いいこにしてるから、泣いたりしないから。
     …そしたら、なつめのヒーローになってくれる?」

    「…ヒーロー?」


    「うん。なつめが怖いときも、苦しいときも、
     なつめのとなりにいて、おててをぎゅってしててほしいの。
     それだけでいいよ。
     助けてくれなくても、守ってくれなくてもいいんだ。
     そしたらなつめは、誰よりつよくて、しあわせなの」

    「…ぼくでいいのか?
     だが、今の君にとってぼくは、単なる通りがかりの…」

    「…ちがうよ。全然ちがう。
     おにいちゃんがいいの。なつめを助けに来てくれたから」

    「いや…しかし…」

    「…嫌(いや)?」

    「―そんなことはない!」
    慌てて、弁解する。

    「なんにだってなろう。
     ヒーローだってかまわない。
     君が望むなら、ヒロインになってもいいぐらいだ!」

    ふいによぎったのは、あのあたたかな微笑みだった。

     『―もう唯音は泣かなくていいよ!…わたしが唯音のヒーローになる!
      世界だって救っちゃってみせるよ!
      だから、唯音は隣で笑ってて。
      わたしの右腕になって!わたしだけのヒロインになって!』


         
          『―…そして、一緒に世界を救おう!!』




    ((―そうか。夏芽が本当に望んでいるのは…))

    ぼくは、足元のシロツメクサを手にとった。

    「―病める時も、健やかなる時も…、君のもとに。
     君を愛し、敬うことを誓おう。
     ―夏芽。約束だ。また会おう。
     今度は、君のもう少し大きくなった時に。それまで、これを託そう」

    「…これ…」

    草と花で編んだ、ちいさな輪。

    「ゆびわだあ…」

    夏芽は、信じられないようにそれをみつめると、そうっと、手のひらにのせた。
    「…すごい、おにいちゃん。これ、なつめの宝物にするね」

    夏芽が笑う。そのまなじりには、まだ涙のあとが残っていた。

    「…これでおにいちゃんも、ひとりじゃないね!」


    「…?」

    「だって、シロツメクサの花言葉はね、“約束”だから。
    女神さまとの約束は絶対なんだよ!
    だから、きっと、また会える。ぜったいぜったい、そうだもん!」

    そう言って、夏芽は後ろを向いた。

    ぴょこん、ぴょこん。
    嬉しそうに、跳ねると、そっと目の端をぬぐった。

    「じゃあね!―“唯音おにいちゃん”!」

    くるん、と振り返った夏芽は、
    太陽にとかした蜂蜜みたいに微笑って、駆けていった。

    「―え…」

    ぼくは、いつ名乗ったんだ…?

    ぼくの疑問をよそに、視界が急に歪む。
    立ち込める白い霧。
    ぼくは、再び異なる世界に飛ばされようとしていた―。



    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




    「…ちょっとしたサービスですわ」

    わたくしは、鏡面の世界から、そんな唯音様をみつめる。

    “おわび、だなんて言いたくありませんの。
     だって、負けたみたいでしょう?”

    声に出さず、そっと唇を動かす。

    「…わたくしは、いつだって完璧なんですもの」

    そっと、すねるように、繰り返した。

    唯音様への想いだけなら、夏芽様にも、誰にも負ける気がしない。

    けれど、唯音様をしあわせにできるのは、この世にあの子しかいない。

    それを見誤(みあやま)るほど、馬鹿ではないのだ。

    「―伯爵…」

    急に、さびしくなって、肩を抱きしめる。

    “探偵伯爵”。

    ばかばかしいあだ名。ばかばかしい容姿。ばかばかしい性格。

    けれど、そんな貴方に、今、会いたい。
    この穴の空いた心を埋めることができるのは、きっと…。
    ―悔しいけど、貴方だけ。


    貴方様はいつだって、格好をつけて、わたくしの 前に立ちはだかる。

    まるで、誰をも悪者にしない、と粋がるヒーローのように。
    わたくしのかぎづめが傷つかないように、
    わたくしの心が壊れないように、そっと抱きしめてくる。

    いつもは話しかけもしないくせに。
    ぬるく生優しい眼差しで、みつめるだけのくせに―!

    ―なんて、なんて…憎らしいひとでしょう!!

    ―だから、わたくしは、貴方が大嫌いで、大嫌いで、大嫌い。

    ―もう一生、許してあげませんわ。

    わたくしの…。
    愛しい愛しい、憎らしい酩酊伯爵<ヒーロー>様―。








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    comment

    Nicola
    酩酊伯爵かっけえええええ!とここ数話を一気読みして叫びました。
    ええ。いくらでも叫びましょう!
    かっけええええええええええええ!!(うるさい
    とても優しい笑顔のおじさまが目に浮かびます…
    ジェントルマンですね…ヒーローであり、ジェントルマンなんですね!!!?(興奮

    ハルピィアが…最初すごく怖いと思ったんですが、なんだかこの話を読むと…なんとも…!
    憎めないッ!!!可愛らしささえ覚えました。
    なんなの…なんて…(語彙力がない

    夏芽ちゃんは相変わらずいつでもどこでも可愛いです←
    ちびっこ夏芽ちゃんも何て可愛いのでしょうか…
    そして唯音も!!!

    「なんにだってなろう。
     ヒーローだってかまわない。
     君が望むなら、ヒロインになってもいいぐらいだ!」

    なんにだってなろう!だなんて!なんて格好いい!!!!!惚れます。惚れました。
    なんつう…なんつう…唯音らしい決意でしょうか…
    愛らしい…なんとも愛らしい…(語彙力

    はっ
    なんだか勢いに乗ってえらい長いこと書いてしまいました汗
    まだまだ残ってるのに、こんなテンションで私は大丈夫なのでしょうか。
    最後まで読むころには、駄々漏れの愛におぼれてしまいそうです←
    でも大丈夫です。

    『愛は、笑顔は、最強だから!』ですもんね!
    溺れてもいいです。むしろ愛に溺れてきます。
    2013.12.16 19:17
    ❁♥REO♥❁
    そうです!ジェントルヒーロー!ナイスミドルです!*
    酩酊(ひどくよっぱらったひと)というお茶目な名前を自ら名乗る系紳士です!(え)

    ハルピィアはですね。
    一見悪役なのですが実は…というやつです!
    唯音のことが本当に大事で、そのためなら自分はどうなってもかまわない、
    鬼にだって悪魔にだってなってやる、という情に厚いお姉さんで、
    実は自分が愛情をはき違えていることにも気づいていて、でもどうしようもなくて…

    そこに現れたのがナイスミドル系ヒーロー、我らが酩酊伯爵。
    ハルピィアじゃなくても惚れちゃう男前紳士です(笑)

    ハルピィア、一見怖いけど意外といじらしいお姉さんなんだな、と感じていただければ、嬉しいです!*



    夏芽が可愛いといわれると作者が照れます!(なんでだ)

    ニコラさんに惚れていただいて作者も唯音も赤面します〃

    見た目可憐な美少女・唯音ですが、そう、大人かつかっこいいのです。
    見た目をのぞく性格もろもろは、洋画(恋愛もの)の男性主人公をイメージしていて、
    控え目に言っても精神年齢が20代半ば以上という…スーパー中学生…!


    賢く、可愛く、誠実で、かっこよくて、純情可憐…夏芽とは別の意味で最強な唯音です*
    この彼女にしてこの彼氏あり…!


    はっ…!ニコラさんがおぼれ死ぬ!
    クロールで助けないと…!バタフライで救済しないと…!(どっちだ)



    実は本編はあと二話なんて…言えない!!(ぶわっ)

    運命にかかわる大筋のお話はあと二話ですが、

    恋情編は夏芽達たくさんのキャラの甘ずっぱい恋模様、
    番外編・人形姫はまだ心を閉ざした無口なお人形さんだったころの永遠音メインの前日譚、
    展覧会の絵編は夏芽の親友・エマの秘められた真実のお話となっていますので、
    よろしければもう少しおつきあいいただけたらと…!

    たくさん素敵なコメントをくださって、本当にありがとうございました!!
    いつも本当にありがとうございます!!
    ニコラさんの書かれる物語もニコラさんも大好きです!!〃∧〃♥





    2013.12.17 13:04

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