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    05

    『夏芽楽団交響曲 “展覧会の絵” 第二幕<不死鳥>』



    心がざわつく。
    気づけば、目で追っていた。

    ファッションは完璧。成績も優秀。
    本業はオペラの花形―プリマドンナ。
    極めつけは、美の女神のごとき華やかな美貌。

    いつもたくさんの女子に囲まれ、
    それでいて、鼻についたところがない。

    口では高飛車に振る舞っていても、
    本当は誰より思いやりがあって、
    面倒見がいいのは、火を見るより明らかだった。

    そんな彼女―いや、彼は、なんで女として振る舞っているのか。

    理由は明白だった。
    彼に関する噂―愛染家は、女流のオペラ一家。
    期待され、失望され、見返すためにそう振る舞うのだと―。

    ―でも、納得できない。

    なんであんなに…、
    あんなに眩(まばゆ)いあなたは、
    本当の自分をさらけ出さないの?

    違うでしょう?
    役割を演じることに、疲れているんでしょう。

    疲れていることすら気づけないほど、
    一日中、自分を輝かすことをやめられないんでしょう。

    がんばってがんばって…強がっているんでしょう。

    思い込みなんかじゃない。
    だって、ずっと、みていたんだもの。
    恋焦がれて、いたんだもの。


    悔しい。…悔しい。
    一番悔しいのは、なにもできない自分。

    人を愛することも、愛されることもできない自分。

    …リリカ!
    助けて…!

    もう、私は、こんな私をやめたい…!



    ……
    ………


    「―エマ?」







    ぴょこんと顔を出したのは、夏芽だった。


    「…夏芽…」

    泣きそうになって、顔を上げられない。
    机に突っ伏し、背中を震わす。

    「…痛いの?」

    よしよし、と背中をさする夏芽は、
    ひっそりとその呪文を口にする。


    「…痛いの痛いの、とんでけ」


    優しくくすぐったい吐息が、わたしのざらつく心をなでてゆく。

    ひとしきりなでてくれたあと、夏芽は、口を開く。


    「ねえ、エマ、恋って素敵なことだね」

    「…なにが…?」

    「たったそれだけで、体全体が目を覚ます。
     すきって思うほどに、
     全身の細胞が作りかえられちゃうみたいに、花開く。
     今までみてた世界だって、ひっくり返って、ぜんぜん違うものになる」

    「…そうかしら…」

    「…そうだよ。
     たぶん恋って、魔法なんだ。自分をすきになれる魔法。
     それは、不可能だって可能にしちゃえるような奇跡だよ。

     きっと、わたし達は、そのために生まれてきたんだよ」

     

     “恋するために。
          そして、愛するために。”


    歌うようにそう言った夏芽は、最後に、こうしめくくった。
     


         「―だから、きっと大丈夫。」


    ―はにかむような口元。
    ――どこか照れたように色ずく頬。
    ―――こもれびのような、その笑顔。


    そのすべてが一陣の風をまとって、私の心を塗り替える。

    なにが、とは夏芽は言わなかった。

    ―たぶん、そういうことなのだ。

    励ましてくれている。決して、傷痕に触れず。

    そっと秘めた、想いを暴くことなく。



    「―そうね」

    泣きそうになっって、こらえる。
    唇が少し歪んだ。
    でも、関係ない。
    夏芽には、どうせ、すべてお見通しなのだから。

    騙したいのは、自分の心。

    弱い、弱すぎるこの心を、
    違う、私は強いのだ、と上書きする。

    それがどんなにむなしい行為なのか、知っている。
    だけど…。


    私は、静かに窓の外を向いた。

    校門の近く、橙に染まるブロンドが揺れている。

    多くの取り巻きを引き連れて、きっと完璧な笑顔をまとっている。

    強がりも、その向こう側も、知っている。

    いつか、暴きたい、とこの胸がうずく。
    その上っ面の余計なものをすべて剥いで、私だけのものにしたい。

    それがどんなに身勝手で、許されないことだって知っている。

    どれほど、私が醜いかも知っている。

    充分すぎるほど。
    だけど、夏芽は、それを知っていて、「だから?」と言っているのだ。



    “そっか、エマは、自分が醜いって、思ってるんだ。―だから?”


    ―私は、ここではない世界で、異端児として生まれた。

    “―だから?”


    ―私は、誰にも愛されず、家畜のように扱われてきた。

    “―だから?”


    ―私は、自分を救ってくれた唯一のひとに、
     私しか愛せないという残酷な運命を背負わせた。

    “―…だから?”


    …そう。ぜんぶ、言い訳だった。
    ただ、自分が傷つきたくなくて、閉じこもっていただけだった。
    罪という名のもとに自分をいじめて、
    悲劇の主人公よろしく、自分しかみていなかった。

    だからもう、そんなことはやめよう。
    …なんて簡単に言えるほど強くも、たくましくもない。

    だけど…烈火。
    本当は誰より泣き虫なあなたが、虚勢を張って、
    あまりに美しい、完璧な笑みをまとって、
    みんなに愛されている、その姿をみていると。

    …憎らしくて。
       まぶしくて。
         ―羨ましくて。

    わたしはほんの少しだけ、自分のことを忘れていられる。

    その華麗なステージに、魅せられる。



    夏芽とは違う。

    どんなに賢い者も、かなわない、聖なるあの子とは。

    引かれた一線。おかしがたい、妙(たえ)なる領域。
    無邪気さのかたまりで、魔法使いみたいな、
    存在しているだけで奇跡みたいなあの子とは違う。

    誰かの心にそっとお邪魔して、永遠に消えない蝋燭みたいな、
    ひかりの魔法を灯す、魔法使いとは、全然違う。

    ―烈火の本質は、もっと眩暈がする。

    激しく燃え上がる炎の象徴。
    情熱の不死鳥。
    太陽に飛び込み、なんどだって再生する、その雄々しさ。
    暴力的なまでの魅力。

    みための女性的な美しい容姿に騙されて、吸い寄せられ、
    気が付けばその鮮烈な差異(さい)に魂ごと奪われ、
    魅了されてしまう者がどれほどいることか。


    私はその大勢のうちのひとりでしかない。
    わかっているわ。
    それでも、あなたが好きよ。
    愛染烈火。

    あなたがすき。
    でも、私は、あなたに近づいたりしない。
    ひっそりと、この胸に秘め続けるのだわ―。


    そう、思っていた。


    私は、まだ知らない。

    彼がどんなに悪魔的か。
    どんなに果てしなく、燃えているか。

    その情熱的な焔(ほのお)の前で、
    私がどんなに無力か。

    私は、知らない。

    いつだって、知らない。


    無敵の魔法使いと、死なずの不死鳥と、
    展覧会の絵に魅了された少女。

    これは、そんな物語なのだと。






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