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    『鏡の森のエトワール』~第3話 “エレジーなんていらない”~

    「やだよう…っ、帰りたく、ないよぉ…っ!」

    雨が降る。
    滂沱(ぼうだ)に降った。

    ぼとぼと、ぼたぼた。

    血色の地面が濡れ、流星の群が降る。

    エヴェリーナ、と魔王が言う。

    「やだ…っ! 離れたくない…もうひとりぼっちは嫌だ…!」

    …エヴェリーナ、と魔王が繰り返す。

    「やだよぉ…っっ…」
    ひっく、と声をからすわたしに、魔王は 、今度は強く言う。

    「“エトワール”」



    ひく、とわたしの嗚咽(おえつ)が止まる。

    「エトワール、私はお前に嘘をついていた」

    「な、に…それ」

    「お前はひとりぼっちではない。
     エヴェリーナ…星の子<エトワール>よ。
     お前には血の繋がったきょうだいがいる。
     唯音。君島唯音」

    「…っ」

    わたしは、小さく息を吸い込む。

    「そう、私はお前の名を奪った。
     最初は、ただの酔狂だった。
     愛に彩られた奇跡の世界、朝顔の娘とはどんなに可愛いらしく、
     愉快な生き物かと思っていたのだ。

     我が家来、月花に命令してお前を連れてこさせるつもりだった。
     だが、月花はお前に恋をした。
     ここには帰らないと言った。

     私は憤った。
     家来の…しもべの分際で私に逆らうのかと。
     私は月花を追放し、お前をこの世界へと無理やり引き込んだ。

     もうどこへなりとも行ってしまえ、お前なぞこの私には必要ない、と言ってな。
     月花の恋した女とはどんなものか、と私はお前の姿をみた。

     驚いた。
     お前はまるで美しい。
     銀椿(ぎんつばき)の蕾のようだった。
     雪のように透き通る肌の向こう、果実のような赤い花を視(み)た。

     お前の心臓は実にうまそうだった。

     私の胸は高鳴った。
     このひ弱な娘をどう食らってやろうかと。


     煮てもいい、焼いてもいい、生のまま刺身にしても、
     いや、丸ごとかじりついたら、
     さぞかしうまそうな悲鳴を聞けるだろうと。

     ―だが、お前に触れようとした瞬間、ものすごい火花が散った。

     電撃のようなそれが、お前の共鳴性超能力…、
     <オーバーシンフォニック>による迎撃だと気づくのが遅れた。

     相手の感情に共鳴し、それと同等のエナジーを返す…
     超過交響曲<オーバーシンフォニー>。

     補食しようという私の心境はものの見事に反射され、
     私の身体の半分が喰われた。

     なんという力、なんという恐ろしい娘か、と私は歓喜した。

     この娘こそ、私の花嫁にふさわしいと。

     私にとって、花嫁(それ)は、いずれ死せる生き物。
     胎内に私の子を宿せば、もって赤子が生まれて数日で衰弱死するのがさだめ。

     私は、やけくそになっていた。
     恋などしない。
     愛など持たない。

     ただ役割として、魔王の後継者を作る。
     それだけでいいとついには諦めるに至(いた)った。

     ―そして、おまえに出会った」


    魔王は、その時はじめて微笑った。

    「おまえは強い娘だ。
     この異世界の娘、迷子の小鳥は、
     我ら写しみの世界の魔力<エナジー>とはまったく違う力を宿している。
     
     あるいはおまえなら、私の子を産んでもいなくならないかもしれない。
     …そう、おまえなら私の家族になれると、私は望んでしまったのだ。

     おまえと過ごすうち、その感情は、静かにふくらんでいった。

     生意気で、可愛らしく、強情で…月花そっくりの娘だと思った。

     知れば知るほど、似すぎていて、違いすぎて、その落差が私の心をくすぐった。

     そう、気づけばもうとっくに…
     おまえたちは、世界にたったふたつしかない、私の宝になっていたのだ」

    魔王は、わたしに腕を伸ばす。
    ゆっくりと、包み込むように、抱きしめる。

    「そして私は気づいた。
     もし、私がこの宝を大切に思うなら、そのどちらかを選ばなければならない。
     両方を慈しむことは、この魔王にはできない。
     
     ゆえに、私は、そのふたりの宝の気持ちを考えてみた。
     月花には、もう家族がいない。
     行くべきところもなければ、味方のひとりもいない。
     
     おまえはどうだ。兄がいる。姉のようにしたう者がいる。
     家族が、学びやが、ばれえという天職が、居場所がある。
     おまえをもし本気で欲したならば、私はおまえからたくさんのものを奪う。
     
     だから、私は、おまえではなく月花を選んだ。
     …こんな薄情な男など、おまえには不要だ。
     
     おまえのような女にはもう会えないだろう。
     だが、私は、もう、じゅうぶんだ。
     おまえと過ごした時間があれば、魔王はもう花嫁などいらん。
     愛なき子をなし、恋なき人生の残りを、抱いてゆける。
     
     それが私の幸福で、歩むべき道だ。
     だから、さよならだ、永遠音。
     私の、永遠の一番星<エトワール>…」

    「まっ…!」

    まって、と言いたかった。
    手を伸ばす。

    闇色の光が辺りをけしとばす。

    伸ばした手が掴(つか)まれることはなく、
    空を切って、わたしの意識とともに、すべてが消え去った。

    こうして、わたしの日常は帰ってきたのだった。
    あまりに、残酷な、そして平穏なしあわせのみを、わたしに残して。






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