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    『鏡の森のエトワール』~第11話 “真珠烏と月光の蝶”~


    赤紫の球を抱いて月花は泣いた。

    きっとごうごう、と森が哭(な)くから。

    魔王。
    魔王。
    ―永遠音。

    なんでみんな、自分を裏切る。

    僕だって愛されたかった。
    愛されたかったよ。








    「お母さま、なんでぼくは青いの?」

    『月花、お前は、特別な子なの。
     月の花が咲いた晩に、私が拾ってきたのよ』

    「じゃあお母さま、ぼくはお母さまの子じゃないんだ?」

    不思議と悲しくはなかった。
    だって、そんなの、わかりきっていたから。

    ぼくは人の子の姿をしていて、
    お母さんは烏(からす)の姿をしていたから。

    お母さんは、人の言葉を話す白い烏(からす)だった。

    真珠色に輝くお母さんは、
    幼い僕のため、木の実を拾ってきてくれた。

    僕は人の子のなりをした、青色月光蝶という珍しい生き物だった。

    月下美人という花が咲く晩、月の光を宿しながら、
    透明に透き通る身体と、青い血液をもって淡く輝く、
    人と蝶のどちらでもなく、どちらでもある生き物。

    今は僕以外滅亡したその種族は、
    とても美しく珍しい生き物として鏡森の魔族に狩られた。

    だから、ぼくは魔族を憎んでいたけれど、
    真珠烏であるお母さんのことはすきだった。

    お母さんは、いつも優しく、厳しく、美しい烏だった。

    常闇という世界に住んでいるもうひとりのぼくは、
    ぼくと同じく両親を失ったけれど、
    義理の母親に、お前はわたしの子だ、と繰り返し言われたらしい。

    だけどぼくのお母さんは、そんなおためごかしは言わない。

    『お前はわたしの子ではないよ。だってお前のほうが美しいもの』
    というのが、お母さんの口癖だった。

    その厳しくも温かい情に満ちた言葉を聞きたくて、
    ぼくは何度もこう聞いた。

    「ねえ、ぼくはなんで青いの?」

    「ねえ、ぼくはなんでお母さまより大きいの?」

    「ねえ、ぼくはお母さまの子ではないの?」

    お母さんは呆れたように羽を揺り動かしながらも、
    いつも、ちゃんと答えてくれた。



    ―でも、最後の晩だけは、違った。




    「お母さん…」

    「月花。泣くのはおよし。
     さあ、ここを発(た)つんだ。
     ここにいたら、おまえまで殺されてしまうよ」

    「でも」

    お母さんがこんなになったのは、ぼくのせいだ。
    前々から、ぼくという珍しい生き物を隠していたとして、
    お母さんは同胞である烏達から差別を受けていた。

    お母さんの美しかった真珠色の翼は、
    いまや赤に塗(まみ)れていた。
    烏達が、ぼくを狙う魔族にぼく達のことをばらさなければ。

    「仕方がなかったんだよ。
     おまえを守るには、わたしは弱すぎた。
     烏達を恨んではいけないよ。
     弱いものは死ぬ。当たり前のことさ。
     家族を守りたかったら、
     代わりのものを差し出さなければいけない。
     それが相手にとってどんなに大切なものでも、
     自分の宝物を守るには、情けを捨てるしかない」

    「そんなの、おかしい」

    「おまえは、いい子だからね。
     きっとわたしとは違って、そうはしないんだろうさ」

    いつもと同じはずの言葉が、ひどく苦しく思えた。

    「おんなじだよ。―かあさまとぼくは、おなじだよ」

    だってこんなにあったかい。
    そう言おうとして、血の気がひいた。

    お母さんの体温が。

    「いいや。おまえは、わたしとは違う。
     …おまえは、いいこだから、お母さんのお願いを聞いてくれるね。
     五つ数えたら…あの洞窟に飛び込むんだ。
     もう、時間がない。
     魔法の霧は、あともって数分。
     その間に、おまえは洞窟の奥へと隠れるんだ。
     あとはお母さんがなんとかするから、
     おまえはもう心配しなくていい」

    「でも」

    「でももだってもない。
     さあ、おゆき。
     今度はもう、振り向くんじゃないよ」

    お母さんの翼が白く輝く。
    幻惑の魔法。
    それがお母さんに使える最後の力だと、
    わかりたくなかったけど、わかった。

    白い霧に包まれてゆく洞窟に飛び込む。
    勢いよく飛び込んだせいで、身体のふしぶしから血が流れた。

    (お母さん)

    震えながら、奥へと這(は)う。
    膝ががくがくと鳴り、向こう側に抜けるまで、
    何時間かかったのかわからない。

    その先は、鏡でできた木々が立ち並ぶ、魔獣の森だった。
    …静かだった。
    魔物と違って、獣たちは魔王の命でなければ動かない。
    身体を休めるのには絶好の場所だった。
    からだを丸め、一心に叫んだ。

    (ぼくは、いいこなんかじゃない)

    (ぼくは…) 







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