--

    スポンサーサイト

    スポンサー広告 comment(-) trackback(-)
    上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
    新しい記事を書く事で広告が消せます。
    27

    『鏡の森のエトワール』~第13話 “姫巫女と幽霊の鳥”~

    ―夢をみていた。

    それは、一匹の月光蝶が、
    かけがえのない家族を得て、喪う物語だった。

    月下美人が咲く晩にはじまって、嵐の夜にすべてを奪われ、
    再び得た絆をも、静かに荒れ狂う嵐に…

    ―そう、わたしという招かれざる客のせいで、
    歪み、壊れ、はらはらと散ってゆく、
    無残で無慈悲な悲劇<エレジー>だった。


       
    ( エッティ )



    そこに、語りかける声があった。

      
    (( エッティ ))



    それは柔らかく、控えめな、
    月夜の子守唄<ヴィーゲンリート>のようだった。

    顔をあげると、かすかに、ふくよかなミルクのにおいがした。

    『あなたは…』






    目の前に浮かんでいたのは、真珠色に輝く烏(からす)だった。

    (( わたしを知っているかしら? 
       ちいさな一番星さん<リトル・エトワール> ))
     

    『―もしかして…』


    (( そうよ。わたくしこそ、あなたのだいすきな月花のママよ。
      このたびは、わたしの息子が迷惑をかけたわね。
      驚いたでしょう?ああいう子なのよ。
      臆病で、敵を作りやすい子なの。
      きっと、ほんとうは仲良くなりたいのに ))

    それは、魔王のことを言っているようだった。
    月花は、魔王を憎んでいるわけじゃない。
    ただ、だいすきで、だいすきで、
    でもこわくて、どうしようもないだけなんだ。

    似たもの同士のわたしとは違って、魔王は、月花とは違いすぎる。
    だから、月花は、
    魔王がなにを考えているのかわからなくて、つい試してしまう。
    計算なんかじゃない。
    ただこわくてこわくて、そうせずにはいられないんだ。

    (( ―ご名答よ。あなたはやっぱり素敵なお嬢さんね。
      あなたを姫巫女(ひめみこ)と呼ぶ、
      イドールおじさんの気持ちがわかるわ ))

    『イドールさん…? って、スノウのことですか?』

    (( …そうね。
       あのひとをそんな風に呼ぶのは、あなたがはじめてかしらね ))

    『―? あれ、でもあなたは、確か…』

    (( …まあ、幽霊みたいなものかしらね ))

    溜息をつくように、それでも軽やかに、月花のお母さんは言った。

    『…やっぱり…!』

    はっと我に返る。

    月花に…このことを知らせないと…!


    (( ―ダメよ ))

    厳しい声に、耳を疑う。
    口調は柔らかくても、有無を言わせない響きだった。

    『―え…?』

    (( ―あの子はもうお母さんを卒業しなければ。
       乳母の役目は終わったのだわ ))

    『そんな…!』

    ((あの子には魔王と、あなたがいる。
      あのお方…カゲハさまには、わたしにはない父性がある。
      だから、わたしはここまで。後はあなた達、生者の領域。
      死者であるわたしが、関わることではない ))

    『でも…っ!』

    毅然(きぜん)とした言葉に、わたしは反発した。
     

    (( ―まだわからないかしら? ))

    眩い真珠色がさっと色を変える。

    『……っ!!?』

    赤黒い、肢体(したい)。
    腐ったような匂い。
    おちくぼんだ目、とろりとこぼれ落ちる眼球。

    『ゾンビ…?!』

    思わずさっと、足を引いてしまって、唇を噛んだ。

    (( …こんな姿、月花にはみせられない。
       姿をみせたら最後、どんな幻影で包もうと、
       あの子の神聖すぎる魔力の前では、一目でばれてしまうわ。
       …わたしは、あの子の温かい母親でありたいのよ。
       ―こんな醜い化け物ではなくてね ))

    驚かせたくはないの、とは言わなかった。
    短い言葉だった。
    それでも、あふれそうなぐらい伝わってきた。
    温かい母親でありたかった。
    優しい母親でありたかった。
    美しい母親で、ありかった。

    ―月花の失ったすべてのものを与えてやりたかった。
    …そう聞こえた。

    (( 死者の国―“冥の国”に住まうわたしは、
       この世界の理(ことわり)には関われない。
       だけど、死者と生者を取り持つ、姫巫女(あなた)なら、
       わたしの言葉を、届けることができる ))

    『それって…』

    (( そう。あなたになら、
       月花に、家族の素晴らしさを、再び味わわせてあげられる。
       あなたと魔王なら―月花の、ほんとうの家族になれる ))

    (( ―だから、大変な仕事だけど…引き受けてくれるかしら? ))

    わたしは迷って、唇を噛む。
    わたしは姫巫女だと、スノゥは言ってくれた。
    みえないもの、届かないものの声を集め、伝える高貴なる巫女。

    子どもだから、自信がないから。
    ―そんな言い訳はしない。

    教えてもらったから。

    (…魔王に。)

    わたしにも、できることはある。
    毅然(きぜん)と立ち向かう。まなざしを遠くに向ける。
    ただ静かに、胸を張って、見据(みす)える。
    ―現実を。未来を。―みえないものを。みえるものを。
    ―きれいでも、甘くない世界を…。

    マルガリータさんの言う通りにはできないかもしれない。
    月花を裏切って、ふたりを引き裂いたわたしが、
    今更、どうにかしようだなんて、傲慢(ごうまん)かもしれない。
    でも、その期待には答えたい。ううん、答える。

    だって、わたしにとって、月花は…。


    わたしは、顔をあげ、こくりと、頷いた。


    「任せて」

    わたしの100%で―月花を、取り戻す。
    ―ぜったいに。






    ☆★ランキングに参加しています!★☆
    ↓ぽちっとクリック・拍手・コメントなどしていただけると、
    とっても励みになります!



    br_decobanner_20120205210256.gif



    関連記事
    スポンサーサイト

    comment

    post comment

    • comment
    • secret
    • 管理者にだけ表示を許可する