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    02

    『ミッドナイト・ロストサマー』 -5.“裏切り”-

    チカがいなくなって、一ヶ月が過ぎた。






    あたしは、色の抜け落ちたような日々を、
    ただなんということもなく過ごした。

    手を抜くまでもなく成績は落ち、
    授業中は窓の外をみながらぼーっとするか、
    寝るかサボるかの三択になった。

    最初は心配した。
    チカは死んだんじゃないか。
    施設の奴らに何かされたんじゃないか。

    でも、時がたつにつれ、はっきりとわかった。
    あいつは、あたしに飽きたんだ。

    面白みもなければ、可愛げもないあたしと、
    つるむのがダルくなったんだ。

    もともと暗黒仮面とか、痛い事を言っちゃう、ガキみたいなやつだ。
    あたしとダチになったのも、きっとその場のノリみたいなやつで、
    たいした意味なんてなかったに違いない。

    そうだ。
    きっと、そうだ。
    あいつは死んでなんかいない。

    施設なんか敵じゃない。
    きっともう、そんな有象無象(うぞうむぞう)、全員倒してる。

    世界との戦いは終わり。
    だから、あたしのことなんかもうどうでもいいんだ。

    (……アホらし)

    こんなふうに、あいつのことばかり考えてしまうあたしが。
    こんなふうに、あいつのことばかり、思い出してしまう自分が。

    白い歯をむきだして笑う、雲一つない晴天のような笑顔。
    おどける時、ひらりと踊る片足。
    子どものように、あたたかい手。
    ダサいネーミングと痛いポーズの、暗黒仮面ごっこ。

    すべてが白昼夢みたいな、曖昧な幻になってゆくようで。

    (……クソッ)

    拳を握る。ちゃっちいつくりのシャーペンがきしむ。
    いっそ折ってしまおうかと思ってやめた。

    八つ当たりしたって、チカは帰ってこない。
    すべては、もう終わったことだ。

    ふと思い至って、ババアのいる駄菓子屋に足を向けた。

    「……なんだお前、やつれてないかい」

    ババアはあたしを見るなり、しかめっ面で言った。

    「どうせろくなモン食べてないんだろう。これだから今時のガキは。
     ほれ、余り物だから、あんたが処理しな。
     あたしの手作りだからって残すんじゃないよ。
     しっかり食ってブタみたいに肥えるんだね」

    そう言って、大量の煮物とご飯と、チョコミントを押し付けられた。
    ババア、余計な世話焼きやがって。

    公園で、もそもそとそれらを食べた。

    「まずい」

    まずすぎて、ぜんぶ食べてしまった。
    かけらも残さず、綺麗に完食した。
    ご丁寧に、割り箸つきだった。
    ババアの煮物は、しょっぱくて懐かしい味がした。
    二年ぶりに食べた家庭の味だった。

    (……ママ)

    ママがいなくなったあの日、あたしは世界から取り残された気がした。
    世界があたしを笑い、逃げてゆく。
    オヤジの酒癖は更にひどくなり、あたしはろくに家に帰らず、
    友達の家を渡り歩いた。

    いつしか、表面上の付き合いしかできなくなった。
    本当のあたしを知ったら、きっとみんな離れてゆく。

    作り笑顔が上手くなった。
    心と体が別々になったような感じだった。
    泣くこともしなくなった。

    泣いたって、何も変わらない。
    同情なんてされたくないし、心配したフリはもっとゴメンだ。

    あたしの心は冷めていった。
    乾いて、固く閉じていった。

    そんなとき、あいつが現れた。

    『――暗黒仮面参上。』
    最高に痛くて。

    『……クックックッ……暗黒微笑』
    最高に意味不明で。

    『当たり前だろ!!』
    無駄に自信満々で。

    『お前じゃなきゃやだ』
    ワガママで。

    『お前がどれだけ人に嫌われても、オレがお前をすきでいるから! 』
    ――まばゆくて。

    あの日、あいつに出会った時から、
    世界が違う色に染まったみたいだった。

    晴天のブルーをとかしたような、きらきらとしたものが、
    あいつの体からあふれていた。

    あたしが夜なら、あいつは昼。
    真昼の少女。
    太陽の化身。

    バカバカしいけど、本当に、それぐらいやべーやつだった。
    すごいと思った。
    あれだけ高らかに自分を解放しているあいつが、
    いわくつきの施設の人間だなんて思えなかった。

    でも、あいつはこうも言っていた。

    『とにかく、戦友<ダチ>になって一緒に戦おうぜ』

    『……何とだよ』とあたしは返した。

    『……――世界と!!』
    その広げた両手は、まるで自由の翼だった。

    あいつにもきっと、
    辛くてたまらないことはたくさんあったんだろう。
    ――敵がいて。かなわないものがある。

    それでも、だからこそ、あいつは挑戦しつづけていた。

    自分の可能性に、賭けていて。
    その両翼で、駆けていた。

    大空を。この狭くてクソったれな世界を。
    縦横無尽(じゅうおうむじん)に、
    それこそ、物語のヒーローのように。

    ――そう、天下無敵の、暗黒の勇者に。

    なりきっていたし、なろうとしていた。
    その姿に、あたしは惚れた。

    こんな人間がいるなんて、信じられなかった。
    ――疑いもした。
    けれど、そのたびにあいつはそのちゃっちい疑念を、たやすく討ち滅ぼした。

    予想は裏切るくせに、期待に応え続けた。

    まるで、悪と、世界と戦うヒーローみたいに、
    愛と勇気と、希望をまき散らした。

    あたしの世界を、青空色に染めた。

    ――そして、突然いなくなった。
    あたしはバカで、予想もしていなかった。

    その時はもう、あいつがいる毎日が、当たり前になっていたから。


    あの日、夜の防波堤で、家に帰りたくないあたしは、くだらない愚痴をはいた。
    どうしようもない弱音を、吐いた。

    「あたしが、あたしが嫌いだ」
    もう、家に帰りたくないとも。

    「ふーん」
    やつはそれだけ言うと、
    足をぶらぶらさせたまま、しばらく夜空を眺めていた。

    そして、一辺を指さした。

    「チャチャ子」

    「――なに」

    「流れ星」

    あたしは、俯(うつむ)いていた顔をあげた。

    ひとしずくのかけらが、星の海を走っていた。

    きらり、とちいさな光を撒き散らし、そして、すっ、と消えていった。

    「――な!」
    チカはこっちを向いてはにかんだ。
    「……?」

    なにが、「な!」なのか、なにに同意を求めているのか、
    ぜんぜんわからなくて、あたしが聞き返すと、チカは、立ち上がった。
    そうして、くるり、とあたしに向き直った。

    「お前がどれだけ人に嫌われても、オレがお前をすきでいるから!」

    広げた両手が、歯をむきだした笑顔が眩(まぶ)しくて、眩しすぎて。
    あたしは、思わず、まるでだだをこねるガキみたいに、繰り返した。

    「あたしが、あたしを嫌いでも?」

    「当たり前だろ!!」

    その時、とんでもないことが起こった。
    夜空が、もう一度光った。
    そして、たくさんの、星、星、星……。
    流れ星が、夜空を埋め尽くしたのだ。

    やがて、流星群は小ぶりになり、チカは、何かを言った。
    その言葉は、低く、聞き取れなかった。

    今では、その言葉こそが、
    チカがいなくなった理由の鍵なんだと思う。

    チカは、あたしが家に帰るかわりに、施設に戻った。
    あたしを家に帰すためだけに、
    あれほど嫌だと言って散々逃げ回っていた、施設に帰ったんだ。
    それは、確かに約束だった。

    はっきりと口にしなくても、いや、軽々しく口にしないからこそ、
    固く、大事な約束だった。

    『――帰るぞ、暴走娘』
    その言葉だけが、今も胸にこびりついて、離れない。

    チカは、いったいどこに行ったのか?
    施設とは、どんなところなのか?

    すべてが、謎で埋め尽くされている。

    まるで、この世界みたいに。

    あたしは、そっと涙をぬぐった。

    「……ふっ……」

    あたしは、また取り残されたんだ。
    いつだって、あたしはひとりになる。
    ママがいなくなったように。
    世界はあたしに背を向ける。

    ――何度だって、裏切る。

    『一緒に戦おうぜ』
    嘘。

    『お前じゃなきゃやだ』
    ……嘘。

    『間違えた。お前じゃなきゃダメなんだ』
    嘘じゃねえか。


    『“お前がどれだけ人に嫌われても、オレがお前をすきでいるから! ”』


    「~裏切ってんじゃねえよ、バカ……ッッ!!」

    あたしは、泣いた。
    公園のベンチで、ボロボロ泣いた。
    ぬぐっても、ぬぐっても、涙が後から後から溢れてきて、
    悔しくてさらに泣いた。

    地面が濡れて、スカートがびしょびしょになる頃、
    背後から、その声が、降り注いだ。



      「なに泣いてんだよ」









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