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    03

    『ミッドナイト・ロストサマー』 -6.“ヒーロー”-

    「なに泣いてんだよ」





    あたしは、振り向いた。

    「ちっ……!」

    チカ――!と言おうとして、口をつぐんだ。

    バリバリのアイライン。
    ワックスでクールにセットしたショートカット。
    びりびりに破いたようなワイルドな服装。

    「鮫島……」

    「ああ? ――呼び捨ててんじゃねえんぞクソが」

    鮫島有姫(さめじま ゆうき)。
    このあたりを根城にしている、暴走族――ヴァルハラレディースの副長。

    鮫島は、ずかずか歩み寄ると、あたしの顎(あご)をつかんだ。

    「お前の考えてること、当ててやろうか。
     頭おかしい施設の女に騙されて、ショックで授業に集中できません。
     悲しくて悲しくて、涙が止まりません。
     あたしは悲劇のヒロイン、ヒーローはどこですか?」

    「てめえ……」
    頭にざあっと血がのぼる。

    「――おお? 殴るか?
     このヴァルハラレディースのナンバーツーのあたしを殴るか?
     やってみろよ。
     暗黒仮面だか、こんにゃく仮面だかしらねーが、
     あんなイカれたやつのために、死んでみろよ」

    「……ッ!!」

    ぱんっ!

    あたしは、鮫島の頬を叩いた。
    じわじわと暑くなる手を抑え、あたしは鮫島をにらむ。
    そして、宣言する。

    「テメエは、勘違いしてる」

    「……ハッ」
    鮫島の目がぎらぎらと笑った。

    「チカはな。
     すげー痛てーし、意味わかんねーし、ワガママだし、無駄に自信満々で、
     ガサツだし、言葉使い汚ねーし、一人称おかしいし、
     施設に押し込められてるよーな問題児だよ。
     だけど、だけどな……ッ」

    チカは、正義のヒーローなんかじゃない。

    ――それでも。
     

     「――あたしのヒーロー、なんだよお……!」



    あたしは、鮫島の顔をめちゃくちゃに殴った。
    蹴りを入れやった。わきっぱらに、顎(あご)に、腹に。

    あたしはぜいぜいと息をして、額に流れる汗をぬぐった。

    これが、あたしの鉄拳制裁。

    しょぼいけど、チカみたいに強くないけど。あたしにも。

    できることはある。 そう証明したいんだよ。
    テメーが帰ってくるまでに、あたしだって強くなってやるって。

    守られるばっかじゃない、
    たまには、あんたを守るヒーローになりたいって、思ったから。

    だから待ってろよ、チカ。

    あたし、強くなるから。絶対、強くなるから。
    どっかでくたばったり、死んだりすんじゃねーよ。

    絶対、あんたを超えてみせるから。

    世界だって、戦ってみせる。

    強がり?
    ――そうだよ。

    さびしい?
    ――本当にな。

    テメーがいなくなって、すっげえさびしい。
    ぜんぶ、ぜんぶテメーが奪っていったから。

    愛も、勇気も、希望も、すべて、すべて。

    あんたがいないと、そんなのゴミでしかない。
    お前は、あたしの流星で。
    一番星で、救世主で、ヒーローだったんだ。

    だから、覚悟してろよ。
    あたしは、お前を倒しにゆく。

    奪われたすべてのものを、取り返しにゆく。
    お前を、取り返しに。

    「……ハッ。いい顔してんじゃねえか、七織」
    鮫島が、鼻血をぬぐって言った。

    「――ハア?」

    「それだよ。お前はこうでねーと。
     クソがいなくなったぐれえでメソメソしてるなんて、
     お前らしくねーんだよ。
     また泣いてやがったら、あたしがぶん殴ってやるから、
     せいぜい後悔しねーように、やりたいことやってバカ笑いしてるんだな」

    「鮫島……お前……」

    「フン。言っとくけど、お前のためじゃねーぞ。
     あたしは、あたしの正義で生きる。
     たまたま、利害が一致したぐれーで、勘違いすんなよ。
     行ってこい。
     弱虫のおめーと違って、お前ごときが一瞬いなくなったぐらい、
     どうでもいいし、余裕なんだよ」

    「……泣いてるけど」
    鮫島は、ボロ泣きしていた。
    ぶっちゃけ、あたしよりも泣いていた。

    バリバリにデコったアイラインが崩れて、
    いたいけな子猫のようなキュートな瞳が、潤んではポロリと雫をこぼし、
    十センチはあるヒールにいたっては、
    殴られまくって脱げてしまったせいで、
    150もないちいさな体がさらにちいさくなっているしまつ。
    もうあの時の悪役感は皆無(かいむ)だった。

    (……お前、悪役に向いてねーよ)

    あたしは、ちょっと笑った。

    そして、鮫島に言った。

    「――ありがとう」

    「……っなに言ってんだテメー、ぶっ飛ばすぞ」
    瞳をごしごししながら、涙声で、鮫島が、“有姫”が言う。

    「……行ってくる。
     そんで、帰ってきたら、あたしの戦友<ダチ>になってほしい」

    「――ハア?!!」

    「“一緒に、世界と戦おーぜ”」

    あたしは、歯をみせて笑った。
    なあ、チカ、あたし、お前みたいにやれてるかな?
    お前みたいに、なれるかな。

    あたしは、お前に会いにゆく。
    手がかりは、皆無だ。

    けれど、お前がしたように。

    ――あたしも、世界と戦ってやるよ。

    負け戦になんねーよう、せいぜい頑張ってやる。

    あたしは知らなかった。
    本当のあたしをみていてくれたのは、あのバカだけじゃなかった。
    鮫島も、あの時代錯誤なバリバリのヤンキーも、
    あたしのために、こんなひでー怪我までして。

    殴り返すなり、蹴り返すなり、しようと思えばいくらでもできた。
    だけど、やつはいくら殴られても、蹴られても、そうしなかった。
    正義に倒される悪者<ヒール>みたいに、損な役割をやってくれた。

    暴走族? ヤンキー? 不良?
    ――どこがだよ。

    こんなバカみてーにいいやつが、チカの他にもいた。
    だったら、奇跡だって、起きるかもしれない。

    あの日、絶好のタイミングで流星郡が降ったように。

    あの一番星を、みつけられるかもしれない。
    ばきべき光る、カミサマだってぶっとばす、“最強の彦星”を。

    そして、あたしは誓った。
    星空じゃない、晴天に。

    ――倒しにいく。
    調子に乗って暗黒微笑する、
    あのはた迷惑なラスボスに、一発食らわせてやる。

    あたしは、臆病で、弱虫で、強がってばかりのダメなヤツだけど。
    それでも、意地ぐらいある。

    これだけ泣かせておいて、登場もしねえ、甲斐性なしのダチなんか、
    口だけの戦友<ダチ>なんか……あたしが、“鉄拳制裁”してやる。
    その腐った根性、叩き直してやる。
    だから、じっとしてろよ、馬鹿野郎(ばかやろう)。

    ――あたしは、お前を殴りに行く。





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    comment

    Nicola
    あけましておめでとうございます!

    キャ―!!!!有姫ちゃん(怒られる)かっこいい!!!!
    なんて格好いいんですか!惚れそうです!
    これはヴァルハラレディースに入隊(入族?)したくなりますな…なんて…なんて男前なんでしょうか…

    千夜ちゃんも格好いいです…
    なんなんでしょうか…この格好いい麗しきおなごたちは…

    有姫ちゃんも千夜ちゃんも素敵ですが、こんなに影響を残してくれたチカちゃんもヤバイです。
    暗黒微笑がものすごく懐かしく愛おしいです。
    早くあの痛いけどすごく格好いいチカちゃんをまたみたいです。

    私今回格好いいしか言えてないですね。
    ちょっと語彙力をどうにかしないと興奮が伝わらないです!!(落ち着いて

    今年もよろしくおねがいします!
    また来ます!
    2014.01.03 23:33
    ❁♥REO♥❁
    ✩**あけましておめでとうございます!**✩

    そう、有姫(姫ちゃん)は見た目は可憐な子猫でも中身はワイルドなウルフです!!
    ナンバーツーはダテじゃない!(え)

    おお!Nicolaさんもヴァルハラレディースに入って青春に闘魂しますか?(*´ω`*)**✩(キラキラ)
    リーダーの乙女さんに一発なぐられて落ちなかったらバッチリ合格ですよ!(痛い)
    一本ぐらい脇腹いくかもしれませんが、
    情に厚いことに定評のある乙女さん自ら、ぐるぐる包帯巻いてくれるので大丈夫です!
    (ただしヘタクソなので姫ちゃんが巻き直します*笑)

    千夜はチカを見つけ出し、再び取り戻すことができるのか?
    施設とは?
    チカの秘密とは?
    とここからが大事なところなので、頑張ります!(*´ω`*)♥

    こちらこそ、よろしくお願いいたします!!**
    2014.01.04 22:13

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