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    『ミッドナイト・ロストサマー』 第二章<施設編> 第2話 “狂犬注意”

    「よう、待ってたぜ、千夜」





    そいつは言った。
    スカーフを巻いていて、顔はわからない。
    少なくとも、チカじゃない。

    そいつは、高校生らしき男で、毛先だけ赤毛の金髪をしていた。
    ごつい。腰周りは細いが、腕は太い。
    ムキムキっていうわけじゃないが、かなり鍛えている。

    それだけじゃない。街灯(がいとう)に照らされて、
    ところどころ、古傷のような筋張ったラインが見え隠れしている。

    その目をみて、ぞっと寒気が走る。
    飢えた獣のように、すわった瞳が、
    夜の闇を引き裂くように、ぎらぎらと輝いていた。

    誰だ……?ごくりと息を飲む。
    なんであたしの名前を知っている?

    「俺が誰で、なんでテメエの名前を?って顔だな」

    「――だったらどうした」

    じゃり、と砂を踏み、足もとを確認する。
    ――逃げれるか。
    もしヤバそうなら、プライドをかなぐり捨て、即座に逃げる。


    「――質問1。俺の名前は犬神雷門。所属施設はやつと同じ第五」

    「第5……?」


    「――質問2。
     お前は施設に目をつけられている。やつに会う前に捕まる」

    やつは、雷門は言う。
    言いながら、近づいてくる。

    たるそうな一歩一歩から、目が離せない。
    じり、と後退しそうになって顎を上げた。

    ――気圧されるな。隙をみせるな。
    ちりちりと頭がうずく。耳なりがする。

    「――質問3。やつの情報は俺も知らない」

    「なんだって……?」
    雷門はスカーフを外し、にやりとするどい犬歯をみせて笑った。

    その時には、もうやつは目の前だった。

    「――質問4。“お前はもう逃げられない”」

    ざっ……。土埃(つちぼこり)が舞う。
    舌打ちをした。――囲まれている。

    釘バット、ナイフ、メリケンサック。
    ヤバそうな得物(えもの)を持った男共が、あたしを取り囲んでいた。

    ――まずい。完璧にしてやられた。
    ゆっくりと間をもたせた思わせぶりな言葉。そして、一挙一動。
    すべて、自分にすべての気を向けさせ、注意を引くため。

    「……最低」
    口のなかで、小さく愚痴(ぐち)を転がす。

    逃げ場はない。
    こいつひとりなら、隙をみて逃げることもできた。
    でも、周囲には屈強な男共……それも筋金入りの不良。
    全員ぶっそうな武器持参。
    勝ち目はない。


    「――降参だ」
    あたしはゆっくりと手をあげた。

    「お前の欲しい情報、すべてくれてやる」

    そう吐き捨て、ぐっと前を向く。
    雷門を見据える。
    その瞳に獰猛(どうもう)な光が宿ったのをみて、寒気をかみ殺す。

    (……まだだ)

    まだ、情報が足りない。

    「お前はなぜ、あたしをはめた。なんの目的だ。
     お前は、チカと同じ施設だって言ったな。
     施設ってなんだ。お前たちは……何者だ」

    「わかってねえようだな、千夜ァ。
     自分の立場、思い出させてやろうか?」

    雷門はクックッと喉を鳴らし、
    おもむろに背を向け、公園の真ん中まで移動した。

    そして、こちらに向き直り、手を宙に浮かせた。
    なにも持っていない。でも、なにかをつかんだ。みえないなにかを。

    ごうっ、と風がふく。
    雷門の手の周りに、猛スピードで、その風が集まってゆく。

    ――嵐。あれは嵐だ。そうとしか思えない。
    台風が、圧縮されている。

    あんなものをぶつけられたら、少なくとも無事ではすまされない。
    怪我ですむか。
    釘バットやメリケンサックで殴打されるのと、どちらがましか。

    いや、どちらも選ばない。
    あたしは腹がふくらむほど大きく息を吸い、咆哮(ほうこう)した。


         「――<<“戦いの女神よ!”>>――」





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