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    27

    『夏芽楽団交響曲』 “熱情<アパショナータ>” -2-

    「エマ」

    朝のにおいが満ちる教室で、あたしは、その人に声をかける。





    「……」

    まだ、他には誰もいない。
    案の定、エマはこちらをみようとはしない。
    代わりにアッシュブラウンの三つ編みが、
    陶磁器のようにすべらかな肌にさらりと揺れた。

    「よく眠れたかしら?」
    とあたしはその頬に触れようとする。
    ぱしんと払われたが、予想通りだったので気にしない。

    「…みればわかるでしょ」
    そう返すエマの眉間にはしわ。
    目の下にははっきりとクマがあった。

    「昨日の今日で…あなた、なんなの。
     私にはもう関わらないでって言ったでしょ」

    「それなんだけど」

    「……」

    「撤回するつもりないから」
    あたしはきっぱりと爽やかに言い切った。

    「なん…」
    エマが、こちらを向く。
    「やっとこっちをみた」
    あたしはしてやったりと微笑む。

    エマの暗緑の瞳は、ほんの少し丸くて、
    いっそう笑い出したくなる。

    あたたかい気持ちが体を支配して、その心のまま、エマの頬に、もう一度触れる。

    「あなたがなんと言おうと、ぜったいに撤回するつもりないから。
     拒絶しても無駄よ。
     愛染烈火の名にかけて、あたしはあなたを手に入れるって決めたから」

    「…あなた、正気?」
    エマが、あたしの手を再び払おうとする。
    だけど、その動きにさっきのような精細さはない。
    それをいいことに、あたしは、もうひとつの手で、包むようにした。

    「とっくに狂ってるわ。あなたの魅力にね」

    「あなたって…変だわ」
    顔をしかめ、口を押さえて、エマがいう。

    「個性的ってよく言われるわ」

    「夏芽とは、全然、違うわ」
    かすれた声で、エマは言う。

    「…そりゃそうよ。
     あたしは夏芽じゃないし…、
     あいつにできなかったことを、やるために生まれて来たんだもの」

    「…意味が、わからないわ…」
    どんどんとげが弱くなり、小声になってゆくエマをみて、
    思わず、気持ちが、溢れだしそうになる。


    「…それだけあんたに惚れてるのよ」

    今度は、少しくだけて呼んだ。苦笑と共に、はっきりと、甘さを混ぜる。

    「…私を救って、あなたになんのメリットがあるの?」

    抱きしめられたハリネズミみたいに、最後の抵抗をみせるエマ。

    「…惚れた女に尽くさない男はいないでしょ?」

    笑って、言う。

    「―ッ、惚れた惚れたって、気安くいって、本気っぽくないわ」

    すねたように、エマが言う。
    その表情がばつぐんに幼くて、思わず笑ってしまう。

    ハリネズミのエマ。
    強情っぱりで、素直じゃない。
    押しても引いてもだめ。
    なんて愛しい、なんて手強い、あたしの好きな人。
    完全無欠の要塞。
    とげだらけ毒まみれ…だった、少女。

    …チェックメイトよ、とあたしは冷たくかたいそれを触る。

    「ここまできて疑ってるの?
     あたしは、あんたが好き。惚れきってる。
     …まあ口ではなんとでも言えるし、行動でみせてあげるわ」

    「…何を…」

    じゃきん。




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