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    27

    『夏芽楽団交響曲』 “熱情<アパショナータ>”-3-

    …じゃきん。
    金属がすれる音がして、黄金が宙に舞った。


    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




    朝日をあびて神々しく照らされる、オレンジがかった黄金の束。

    それは、愛染烈火の、自慢のブロンドだった。

    「…あなた…!」

    じゃきん、じゃきん、じゃきん。

    軽やかに切られてゆく、螺旋状の巻き髪。

    なんて、無残な…なのに、どうしてだろう。
    なんて、清々しくて、美しいんだろう―!!

    女神に愛された美貌に、
    これほどめまいを覚えたのははじめてだった。

    何度もみているはずなのに、目が離せない。

    「―ッ…!」

    「…あたしは、お前のために女を捨てる。
     お前が女と付き合う気がないなら、
     俺はもう男であることから逃げない。
     …<愛染烈火>は約束を違えない。
     ―約束する。舞台以外では、俺はもう、女のふりをやめる」

    烈火の小指に、炎みたいな光がやどる。
    オレンジがかった黄金色。
    髪と同じ、きっと烈火自身の、魂の色。

    「俺が男であることを否定した親族連中にはもう媚びない。
     そんな必要なんて、最初からなかったんだ。
     オペラで見返せば、それだけでよかったんだ。
     それを教えてくれたのは、お前だった」

    「…なに、それ…」

    「俺は弱い。周囲からの目ばかり気にしていて、
     いつだって認められようとやっきになっていた。
     …でもそれは、ただのハリボテだ。
     お前の言うとおり、俺は自分と向き合っていなかった」

    「…でも、おかげで、気づけた。
     俺は、自分を殺すべきじゃない。
     媚びて、自分を捨てるべきじゃない。
     …俺は、これまでの俺じゃない、オリジナルの俺を作るべきだ。
     そしてそれには、お前が必要だ」

    「…なんで…」

    「お前は、周囲みたいに、俺を祭り上げない。
     それでいて、夏芽みたいに無邪気に褒めるんでもない。
     俺のウィークポイントを一番見抜いていて、
     それを伝えるのに遠慮しない。
     もう一度言う。お前が必要だ。
     他の誰でもない、とげだらけで毒まみれなお前にしか、できない。
     …そして俺は、お前がすきだ」


    「…す、すき、とか…」

    目をそらす。
    まずい。
    もう烈火のペースに引きずられている。

    「…好きだ。お前が知りたい。
     いいところも、悪いところも、ぜんぶ。俺に教えてくれ」

    「―そんなことしたら、嫌いになるかも、しれないわ…」

    取り返さないと。もとのペースを。
    取り繕わないと。いつもの冷静さを。
    なのに、この口は、まるで逆のことを口走る。
    とげも毒も、出そうとしてこんなに必死なのに、
    ばらばらに砕けてかき集めることさえできない。
    どうしよう。
    今さらあせる。

    「―っ!」

    慌てて口を開いた私は、目を上げてしまった。
    飛び込む。
    烈火の笑顔。


    「…これだけぎったんぎったんにしておいて、今更嫌うもないだろ。
     ―それに、もう手遅れだ」

    それは、苦笑だった。
    ただ、瞳を細めるだけの微笑。
    なのに力強くて、思わず身体が震える。
    唇を噛んで、いまにもとろけそうになるのをこらえる。

    どくん、と胸が激しく乱れる。
    なに、期待してるの…?!
    わたしは、今、なにを考えている…?


    「俺はお前に、約束した。
     お前のために、男でいることを。
     これを破れば、俺は死ぬ。でも、それでいいと思ってる。

     愛染烈火は愛に染まる不死鳥。
     炎に飛び込み、新たな生を生きる、死なずの鳥。
     ―お前が怖いというなら、一緒に飛んでやる。
     
     大空を飛べば、お前にもわかる。
     この世界で、お前がどれだけ損をしていたか。

     ―愛することが怖い?
     …自分のせいで、誰かを犠牲にすることが?

     ―奪い、奪われることが怖い?
     …昼蝉の世界で送ってきた、ひどい人生が忘れられない?」

    烈火は、私の瞳を射抜いた。


    「―ならついて来い。
     お前が今まで見過ごしてきた、世界の大きさ、尊さ。
     全部みせてやる。―だから、来いよ」

    そういって、まっすぐ手を差し伸べる烈火を、
    茫然(ぼうぜん)とみる。

    私の身体から、力が抜けてゆく。
    魅惑<チャーム>だわ、と私は思う。

    私は、悔しいけど、
    もうとっくに、魔法にかけられてしまったのだ。

    導かれるままにそっと、手を差し出す。

    ぎゅっと力を込めて、握られる。引っ張られる。
    ―気がつけば、その胸のなかにいた。

    熱い脈動を感じた。
    烈火の鼓動か、私の鼓動か、わからなかった。
    どくん、どくん。

    あんまりうるさくて、うるさくて。
    私のまなじりがじんと熱くなり、
    ぽろりと、なにかが頬をすべってゆく。

    「私…」

    「…別にいい。いくらでも泣けばいい。…見たりしねえから」

    そういって、烈火は強く、優しく、抱きしめる。

    しばらく、私は泣いていた。
    そうして、目のはしがかぴかぴになるころには、
    登校時間が迫っていた。

    「今日は、休むわ」
    と私はひとこと言うと、カバンを持って、烈火を振り向いた。

    「ありがとう」
    微笑み、返事を待たず、すたすたと教室を出る。
    静謐(せいひつ)な空気を、わけいるようにして歩く。

    しばらく、ひとりになりたかった。

    心を静め、黙々と歩く。そうして、何度も思い返す。


    ―すべらかな手だった。
    …大きい手だった。
    …痺(しび)れるくらい熱い手だった。

    …それはもう、疑いようもなく、男の手だった。

    立ち止まる。
    胸が激しく踊って、息が止まりそうになる。


    (…お前が好きだ? 一緒に飛んでやる?)

    (…あなたは馬鹿じゃない?)



    (( …私の方が、百倍好きよ!!  ))


    ―もう、自分を騙すことなんて、できない。

    …いつだって、羨(うらや)ましくて、
    妬(ねた)ましくて、仕方がなかった。

    いつもいつも、皆に愛されて、全力で生きる。
    途方(とほう)もなく輝いていて、果てしなく遠い存在。

    それでも太陽に向かうイカロスには、なれそうもなかった。

    私は、誰も愛せないと思っていた。
    いや、そうじゃない、ただただ、怖かった。

    昼蝉の世界に生まれ、欠陥品として、
    家畜のような扱いを受けた私を、救ってくれたリリカ。

    私のために、他の誰とも話せないという代償を捧げてまで、
    この朝顔の世界に連れてきてくれた、愛しいリリカ。

    私は、ずっと彼女を恨んできた。

    感謝は、していた。 どれほどお礼をしたって、足りないくらいに。

    ―でも、私は、本当はつらかった。

    私のせいで。
    不良品の私のせいで、あなたは、もう私しか愛せない!

    ならば、私だってもう、あなたしか愛せない!

    もう、こんな思いはいや。
    誰かを愛したかっただけなのに、ただ、それだけだったのに。
    ―あんまりだ!

    “もう、私は…私は…何も奪い合いたくない!!”

    その叫びを、いちばん最初にみつけてくれたのが夏芽なら、
    最初に手を差しのべたのは烈火…あなただった。

    愛染烈火。
    女の子の振りをした、王者のような、不死鳥。
    こばめると思っていた。

    これまで、この世のすべてを否定してきた私なら、
    リリカ以外を愛することを罪だと思って、背負ってきた私なら、
    その手を簡単に振り払って、もとの私に戻れるって。

    でも、予想に反し、私はすぐに烈火から目が離せなくなった。
    あのまばゆいばかりの輝きに、目が焼かれてしまうと思いながら、
    心はいつだって求めていた。

    そんな私が、烈火に告白される?
    信じられなかった。

    でも、今日この日、それが勘違いじゃないと、知ってしまった。
    彼は、本気だ。
    あの自慢のブロンドを、まさか、切ってしまうなんて。
    私のために、女の子のふりをやめ、男として生きるなんて。

    寮はもうすぐそこだ。
    私は、はあ、と息をはいて、空をみあげた。

    心からだ、と思った。

    『ありがとう』
    心から、あなたにお礼が言いたい。

    こんな私をみつけてくれて。
    それでいい、と受け止めてくれた。

    がんじがらめだった心は、すっと解けていった。

    まだ、信じられない。
    でも、足取りは、軽くなってゆく。

    歩きながら、三つ編みを、解く。
    がんじがらめの呪縛を、解いてゆく。

    心から。
    心から、あなたを愛したい。

    そうして、解いた髪に、お洒落(しゃれ)な編み込みをするのだ。


    私は、鏡をみて、笑った。

    鏡のなかの私は、しあわせそうな笑顔を浮かべていた。

    もう、決めてしまった。

    わたし、エマニュエル・アンダーソンは、明日から…、
    だいすきな、愛するあなたの、恋人になる―。









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