FC2ブログ
    --

    スポンサーサイト

    スポンサー広告 comment(-) trackback(-)
    上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
    新しい記事を書く事で広告が消せます。
    25

    『リシアンの契約α アフターエンドロール “愛染”“篠乃” ~ひとつの願いが芽吹くとき~』

    「元気かクソババア!」



    昼下がり、少女は大きな声でどんどんと扉を叩いた。







    がちゃり、とオートロックの鍵が音を立てたのを確認して、
    少女は堂々と診察室に入った。

    「よう小娘。相変わらず貧相な体じゃが風邪など引いておらんか?」

    コーヒーを飲みながらカルテをみていた赤毛の女医が、
    古くさい口調で答える。

    年は30を超えているが、起伏のある体つきと、肉感的な唇が、
    なんともいえないアダルトな色気を醸し出している。

    その表情は老獪だが、いたずらっぽい瞳との対比が、
    ちょっとしたギャップを感じさせる。

    「ぼくが風邪などひくわけないだろう?
     年増こそ医者の不養生などしていないだろうな?」

    相対する少女は、伸ばしかけのボブカットに、白い髪、
    そして兎のような赤い瞳をしていた。

    ワインレッドのキュロットスカートから伸びる足は、
    すらっとした健康的なものだが、白い陶磁器のような肌は、
    どこか真相の令嬢を思わせる無垢で儚い印象だ。

    それでいて、どこまでも強気で不遜な態度なのだから、
    そのすべてが否応なしに目立つ。
    ――少女の名は、愛染愛世という。

    「甘くみてもらっては困るの。妾は万能なのじゃぞ。
     低俗な病などあちらから逃げていくわ」

    ババア…もとい女医である神宮篠乃は、
    赤いポニーテールを揺らし、かかっと笑って答えた。

    「それはよかったな。まあ今日は、
     特別に差し入れを持ってきてやったからありがたく食えよ。
     ババア好みの羊羹だ」

    愛世はぐいっと紙袋を差し出した。
    老舗の高級菓子だということは、包装をみれば明らかだが、
    愛世はこれといってお金に不自由していない。
    だから、気軽に渡したつもりだったようだが。

    「ガキが気など使うなと言っておろうが気持ち悪い奴じゃの。
     まあ、ゆっくりしていけ。
     そして成績を落として小僧にフられろ」

    「余計なお世話だ三十路いき遅れ。
     ぼくとリシアンは永遠に両想いに決まっているだろうが」

    少女の口調と態度は、一貫してまったく少女らしくないうえ、
    不遜にもほどがあるが、女医はまったく気にするそぶりがない。
    ようするに、このふたりは旧知の仲なのだ。


    「あっそう。どうでもいいが、
     そなたのその無意味な自信はどこから来るんじゃろうな。
     グリセリンとか言う小娘はどうしたんじゃ?」

    「グリシ…女豹か。あんな年増はぼくのライバルとは言えないな。
     リシアンもぼくみたいな美少女が好みに決まっている」

    グリシーヌはれっきとしたリシアンの彼女なのだが・・・。
    だが、愛染愛世こと、もと常闇の白の聖王、
    リキア・エイドスには、並ならぬ自信があった。

    自分は絶対にリシアンをモノにすると、
    最初から確信しているかのような。
    …実に攻め攻めの肉食系女子である。

    だが、そんな勝ち気さも、繊細な見た目と相まって、
    確かに周囲の目を引く、チャームポイントといえるかもしれない。
    ややおてんばがすぎ、かなり口が悪いことを除けば。

    「はいはい。胸囲Bがよく言うわ。
     もっと栄養をつけないと惨敗するぞ? 肉を食え肉を」

    「…ハッ。豚みたいに肥えろというのかこのぼくに。
     心配しなくてももう作戦ははじまっている。
     あの女狐がどんな顔をして敗北するか見ものだな」

    鼻で笑うリキアだが、見てほしい、
    足先がさっきからむずむずしている。

    「…はーん。女狐ねえ。
     実はあの小娘のこと、結構気に入っておるじゃろ」

    「…なっ…!」

    リキアの余裕が崩れた。それも大きな音を立てて。
    動揺したのか、目を丸くして頬を薔薇色に染めている。

    「お友達になりたいなら素直にそう言えばよかろうに。
     まったくお前はダメなやつじゃのう。
     千年前から何も変わっておらんな」

    「ふん…! ロリババアこそなんだあの容姿は。
     若作りというより詐欺だろう。
     あの世界のことを持ち出すならぼくも黙ってはいないからな。
     天女だか乙女(笑)だか知らないが、
     ババアはババアらしくうら若きこのぼくに嫉妬してればいいんだ」

    むりやりごまかした感がぬぐいきれない少女だが、
    これでもあちらの世界では、
    千年にわたり少年のごとき姿で生きていた、
    れっきとしたババ・・・いや言わないでおこう。

    もっともこちらの世界では見た目通り中学生なので、
    これからが花ざかりなのだが。

    「…ふーん」
    篠乃はにやにやと笑った。

    「なんだ気色悪いな。言いたいことがるなら言えばいいだろ」

    「いや、お前も成長したなと思ってな」
    篠乃は口調をがらりと変えた。
    リキアはその顔を一瞥した。
    軽やかで包むような微笑は、もうあちらの世界の神や天女ではなく、
    ただの医者の、そしてただの女の顔だった。

    そうして、その表情のまま、さらりとリキアの頭をなでた。

    「よしよし」

    篠乃はそれだけ言うと、もう軽口をたたかず、
    うりうりと愉しそうにその手のひらを往復させた。

    リキアは、依然としていやそうに顔をしかめていたが、
    されるがまま、その体をゆだねているようだった。


    母のようだ、とリキアはひとり思う。

    乱暴な手つきのなかに、優しさがあった。

    いつか、と思う。
    いつかこの医者の、娘になってやってもいい。

    もうリキアは誰をも呪わない。

    最初の願いは、かなえられた。
    愛されたい。許されたい。
    愛したいし、許したい。

    その叫びに気づいてくれたのは、
    ほかでもない思い人、リシアンである。
    タールのような終わりの見えない闇に光を灯したのは、彼だった。

    少女は恋をした。

    そうして高鳴る鼓動に気がついた頃には、
    心臓を突き破ってのどから生まれ出づる、
    怨嗟と渇望は満たされ、羽ばたき、青空の彼方へと消えていた。


    だから、この願いも、もうすぐかなう気がして。

    リキアは、気づかれないようにその口元をほころばせた。


    ――愛染愛世は、世界を愛している。






    ☆★ランキングに参加しています!★☆
    ↓ぽちっとクリック・拍手・コメントなどいただけると、
    とっても励みになります!



    br_decobanner_20120205210256.gif


    関連記事
    スポンサーサイト

    comment

    post comment

    • comment
    • secret
    • 管理者にだけ表示を許可する